「ヴォルデ――待てよ」バーノンおじさんが顔をしかめた。豚ぶたのような目に、突とつ如じょわかったぞという色が浮かんだ。「その名前は聞いたことがある……たしか、そいつは――」
「そう、僕の両親を殺した」ハリーが言った。
「しかし、そやつは死んだ」バーノンおじさんがたたみかけるように言った。ハリーの両親の殺さつ害がいが、辛つらい話題だろうなどという気配は微塵みじんも見せない。「あの大男のやつが、そう言いおった。そやつが死んだと」
「戻ってきたんだ」ハリーは重苦しく言った。
外げ科か手しゅ術じゅつの部屋のように清せい潔けつなペチュニアおばさんのキッチンに立って、最高級の冷れい蔵ぞう庫こと大型テレビのそばで、バーノンおじさんにヴォルデモート卿のことを冷れい静せいに話すなど、まったく不ふ思し議ぎな気持だった。吸魂鬼がリトル・ウィンジングに現れたことで、プリベット通りという徹てっ底ていした反はん魔ま法ほう世界と、その彼方かなたに存在する魔法世界を分ぶん断だんしていた、大きな目に見えない壁かべが破れたかのようだった。ハリーの二重生活が、なぜか一つに融ゆう合ごうし、すべてがひっくり返った。ダーズリーたちは魔法界のことを細こまかく追つい及きゅうするし、フィッグばあさんはダンブルドアを知っている。吸きゅう魂こん鬼きはリトル・ウィンジング界かい隈わいを浮遊ふゆうし、ハリーは二度とホグワーツに戻れないかもしれない。ハリーの頭がますます激はげしく痛んだ。
「戻ってきた」ペチュニアおばさんが囁ささやくように言った。
ペチュニアおばさんはこれまでとはまったく違った眼差まなざしでハリーを見ていた。そして、突然、生まれて初めてハリーは、ペチュニアおばさんが自分の母親の姉だということをはっきり感じた。なぜその瞬しゅん間かんそんなにも強く感じたのか、言葉では説明できなかったろう。ただ、ヴォルデモート卿きょうが戻ってきたことの意味を少しでもわかる人間が、ハリーのほかにもこの部屋にいる、ということだけはわかった。ペチュニアおばさんはこれまでの人生で、一度もそんなふうにハリーを見たことはなかった。色の薄うすい大きな目を妹とはまったく似ていない目を、嫌けん悪お感かんや怒りで細めるどころか、恐きょう怖ふで大きく見開いていた。ハリーが物もの心ごころついて以来、ペチュニアおばさんは常に激はげしい否定ひていの態度たいどを取り続けてきた――魔法は存在しないし、バーノンおじさんと一いっ緒しょに暮らしているこの世界以外に、別の世界は存在しないと――それが崩くずれ去ったかのように見えた。