ペチュニアおばさんの手がぶるぶる震ふるえている。おばさんはどこか逃げ道はないかと、キッチン中をキョロキョロ見回したが、もう手遅ておくれだった――封筒が燃え上がった。ペチュニアおばさんは悲鳴ひめいを上げ、封筒を取り落とした。
テーブルの上で燃えている手紙から、恐ろしい声が流れてキッチン中に広がり、狭せまい部屋の中で反はん響きょうした。
「私の最後のあれを思い出せ。ペチュニア」
ペチュニアおばさんは気絶きぜつするかのように見えた。両手で顔を覆おおい、ダドリーのそばの椅子に沈むように座り込んだ。沈ちん黙もくの中で、封筒の残ざん骸がいが燻くすぶり、灰になっていった。
「なんだ、これは」バーノンおじさんが嗄しわがれ声で言った。「何のことか――わしにはとんと――ペチュニア」
ペチュニアおばさんは何も言わない。ダドリーは口をポカンと開あけ、ばか面づらで母親を見つめていた。沈黙が恐ろしいほど張はりつめた。ハリーは呆気あっけに取られて、おばさんを見ていた。頭はズキズキと割れんばかりだった。
「ペチュニアや」バーノンおじさんがおどおどと声をかけた。「ペ、ペチュニア」
おばさんが顔を上げた。まだぶるぶる震えている。おばさんはごくりと生なま唾つばを飲んだ。
「この子――この子は、バーノン、ここに置かないといけません」
おばさんが弱々しく言った。
「な――なんと」
「ここに置くのです」
おばさんはハリーの顔を見ないで言った。おばさんが再び立ち上がった。
「こいつは……しかしペチュニア……」
「私たちがこの子を放り出したとなれば、ご近所の噂うわさになりますわ」おばさんは、まだ青い顔をしていたが、いつもの突つっけんどんで、ぶっきらぼうな言い方を急きゅう速そくに取り戻していた。
「面倒なことを聞いてきますよ。この子がどこに行ったか知りたがるでしょう。この子を家に置いておくしかありません」
バーノンおじさんは中ちゅう古このタイヤのように萎しぼんでいった。
「しかし、ペチュニアや――」
ペチュニアおばさんはおじさんを無む視ししてハリーのほうを向いた。
「おまえは自分の部屋にいなさい」とおばさんが言った。「外に出てはいけない。さあ、寝なさい」
ハリーは動かなかった。
「『吼ほえメール』は誰からだったの」
「質問はしない」ペチュニアおばさんがぴしゃりと言った。
「おばさんは魔法使いと接せっ触しょくしてるの」
「寝なさいと言ったでしょう」
「どういう意味なの 最後の何を思い出せって」
「寝なさい」
「どうして――」
「おばさんの言うことが聞こえないの さあ、寝なさい」