一年生のときに、ハグリッドがこのパブの話をしたことを、ハリーは思い出した。
「『ホッグズ・ヘッド』なんてとこにゃ、おかしなやつがうようよしてる」
そのパブで、フードを被かぶった見知らぬよそ者からドラゴンの卵たまごを賭かけで勝ち取ったと説明してくれたときに、ハグリッドがそう言った。あのときハリーは、会っている間中ずっと顔を隠しているようなよそ者を、ハグリッドがなぜ怪あやしまなかったのかと不ふ思し議ぎに思っていたが、ホッグズ・ヘッドでは顔を隠すのが流は行やりなのだと初めてわかった。バーには首から上全部を汚らしい灰色の包帯ほうたいでぐるぐる巻きにしている男がいた。それでも、口を覆った包帯の隙間すきまから、何やら火のように煙を上げる液体えきたいを立て続けに飲んでいた。窓際まどぎわのテーブルの一つに、すっぽりフードを被った一組が座っていた。強いヨークシャー訛なまりで話していなかったら、ハリーはこの二人が「吸きゅう魂こん鬼き」だと思ったかもしれない。暖だん炉ろ脇わきの薄暗うすぐらい一角には、爪先つまさきまで分厚ぶあつい黒いベールに身を包んだ魔女がいた。ベールが少し突き出ているので、かろうじて魔女の鼻先だけが見えた。
「ほんとにここでよかったのかなぁ、ハーマイオニー」
カウンターのほうに向かいながら、ハリーが呟つぶやいた。ハリーはとくに分厚いベールの魔女を見ていた。
「もしかしたら、あのベールの下はアンブリッジかもしれないって、そんな気がしないか」
ハーマイオニーはベール姿を探るように見た。
「アンブリッジはもっと背が低いわ」ハーマイオニーが落ち着いて言った。「それにハリー、たとえアンブリッジがここに来ても、私たちを止めることはできないわよ。なぜって、私、校こう則そくを二回も三回も調べたけど、ここは立ち入り禁止じゃないわ。生徒がホッグズ・ヘッドに入ってもいいかどうかって、フリットウィック先生にもわざわざ確かめたの。そしたら、いいっておっしゃったわ。ただし、自分のコップを持参じさんしなさいって強く忠ちゅう告こくされたけど。それに、勉強の会とか宿題の会とか、考えられるかぎりすべて調べたけど、全部間違いなく許可されているわ。私たちがやっていることを派は手でに見せびらかすのは、あまりいいとは思わないけど」
「そりゃそうだろ」ハリーはさらりと言った。「とくに、君が計画してるのは、宿題の会なんてものじゃないからね」