「クィディッチの練習はなし」その夜、ハリー、ロン、ハーマイオニーが夕食のあとで談だん話わ室しつに戻ると、アンジェリーナが虚うつろな声で言った。
「僕、癇かん癪しゃくを起こさなかったのに」ハリーが驚きょう愕がくした。「僕、あいつに何にも言わなかったよ、アンジェリーナ。嘘うそじゃない、僕――」
「わかってる。わかってるわよ」アンジェリーナが萎しおれ切って言った。「先生は、少し考える時間が必要だって言っただけ」
「考えるって、何を」ロンが怒った。「スリザリンには許可したくせに、どうして僕たちはだめなんだ」
しかし、ハリーには想像がついた。アンブリッジは、グリフィンドールのクィディッチ・チームをつぶすという脅おどしをちらつかせて楽しんでいる。その武器をそうたやすく手放てばなしはしないと容易よういに想像できる。
「まあね」ハーマイオニーが言った。「明るい面もあるわよ――少なくとも、あなた、これでスネイプのレポートを書く時間ができたじゃない」
「それが明るい面だって」ハリーが噛かみついた。ロンは、よく言うよという顔でハーマイオニーを見つめた。「クィディッチの練習がない上に、魔法薬の宿題のおまけまでついて」
ハリーはカバンからしぶしぶ魔法薬のレポートを引っ張り出し、椅子にドサッと座って宿題に取りかかった。シリウスが暖炉だんろに現れるのはずっとあとだとわかっていても、宿題に集中するのはとても難しかった。数分ごとに、もしかしてと暖炉の火に目が行くのをどうしようもなかった。それに、談だん話わ室しつはとてつもなくやかましかった。フレッドとジョージがついに「ずる休みスナックボックス」の一つを完成させたらしい。二人で交互こうごにデモをやり、見物人をワーッと沸わかせて、やんやの喝采かっさいを浴あびていた。
最初にフレッドが、砂さ糖とう菓が子しのようなもののオレンジ色の端を噛かみ、前に置いたバケツに派は手でにゲーゲー吐はく。それから同じ菓子の紫むらさき色いろの端を無理やり飲み込むと、たちまち嘔吐おうとが止まる。リー・ジョーダンがデモの助手を務つとめていて、吐いた汚物おぶつをときどきのらりくらりと『消しょう失しつ』させていた。スネイプがハリーの魔法薬を消し去ったのと同じ呪じゅ文もんだ。
吐く音やら歓声かんせいやらが絶え間なく続き、フレッドとジョージがみんなから予約を取る声も聞こえる中で、「強きょう化か薬やく」の正しい調ちょう合ごうに集中するなどとてもできたものではない。歓声とフレッド、ジョージのゲーゲーがバケツの底に当たる音だけでも十分邪魔じゃまなのに、その上ハーマイオニーのやることも足たしにならない。許せないとばかりに、ハーマイオニーがときどきフンと大きく鼻を鳴らすのは、かえって迷惑めいわくだった。