「あのね、シリウス。あなたが学校にいたときは、『叫びの屋敷』に集まったのはたった四人だったってこと」ハーマイオニーが言った。「それに、あなたたちは全員、動物に変身できたし、そうしたいと思えば、窮きゅう屈くつでもたぶん全員が一枚の『透とう明めいマント』に収おさまることもできたと思うわ。でも私たちは二十八人で、誰も『動物もどき』じゃないし、『透明マント』よりは『透明テント』が必要なくらい――」
「もっともだ」シリウスはすこしがっかりしたようだった。「まあ、君たちで、必ずどこか見つけるだろう。五階の大きな鏡かがみの裏うらに、昔はかなり広い秘ひ密みつの抜け道があったんだが、そこなら呪のろいの練習をするのに十分な広さがあるだろう」
「フレッドとジョージが、そこは塞ふさがってるって言ってた」ハリーが首を振った。「陥没かんぼつしたかなんかで」
「そうか……」シリウスは顔をしかめた。「それじゃ、よく考えてまた知らせる――」
シリウスが突然言葉を切った。顔が急にぎくりとしたように緊きん張ちょうした。横を向き、明らかに暖炉だんろの固いレンガ壁かべの向こうを見ている。
「シリウスおじさん」ハリーが心配そうに聞いた。
しかし、シリウスは消えていた。ハリーは一いっ瞬しゅん唖あ然ぜんとして炎を見つめた。それからロンとハーマイオニーを見た。
「どうして、いなく――」
ハーマイオニーはぎょっと息を呑のみ、炎を見つめたまま急に立ち上がった。
炎の中に手が現れた。何かをつかもうとまさぐっている。ずんぐりした短い指に、醜しゅう悪あくな流りゅう行こう後おくれの指輪ゆびわをごてごてと嵌はめている。
三人は一いち目もく散さんに逃げた。男だん子し寮りょうのドアのところで、ハリーが振り返ると、アンブリッジの手がまだ、炎の中で何かをつかむ動きを繰くり返していた。まるで、さっきまでシリウスの髪かみの毛があった場所をはっきり知っているかのように。そして、絶対に捕つかまえてみせるとでもいうように。