ハリーは気が気ではなかった。ロンとハーマイオニーも自分と同じように気づいているかどうか、あたりをちらちら見回した。しかしそのとき、マーチバンクス教きょう授じゅが背後に巡じゅん回かいしてきたので、誰かの答案を盗み見ていると思われてはまずいと、ハリーは急いで自分の星座図を覗のぞき込み、何か書き加えているふりをした。その実、ハリーは、手て摺すり壁かべの上から、ハグリッドの小屋を覗き見ていた。影のような姿はいま、小屋の窓を横切り、一時的に灯りを遮さえぎった。
マーチバンクス教授の目を首筋くびすじに感じて、ハリーはもう一度望遠鏡に目を押し当て、月を見上げたが、月の位置はもう一時間も前に書き入れていたのだ。マーチバンクス教授が離はなれて行ったとき、ハリーは遠くの小屋からの吼ほえ声を聞いた。声は闇やみを衝ついて響ひびき渡り、天てん文もん学がく塔とうのてっぺんまで聞こえてきた。ハリーの周りの数人が、望遠鏡の後ろからひょいと顔を出し、ハグリッドの小屋のほうを見た。
トフティ教授がコホンとまた軽く咳せきをした。
「みなさん、気持を集中するんじゃよ」教授がやさしく言った。
大多数の生徒はまた望遠鏡に戻った。ハリーが左側を見ると、ハーマイオニーが、放心ほうしんしたようにハグリッドの小屋を見つめていた。
「ゥオホン――あと二十分」トフティ教授が言った。
ハーマイオニーは飛び上がって、すぐに星座図に戻った。ハリーも自分の星座図を見た。金星を間違えて火星と書き入れていたことに気づき、屈かがんで訂正ていせいした。
校庭にバーンと大だい音おん響きょうがした。慌あわてて下を見ようとした何人かが、望遠鏡の端はしで顔を突いてしまい、「アイタッ」と叫さけんだ。
ハグリッドの小屋の戸が勢いよく開き、中から溢あふれ出る光でハグリッドの姿がはっきりと見えた。五人に取り囲まれ、巨大な姿が吼え、両の拳こぶしを振り回している。五人が一斉いっせいにハグリッドめがけて細い赤い光線を発射はっしゃしている。「失神しっしん」させようとしているらしい。
「やめて」ハーマイオニーが叫さけんだ。
「慎つつしみなさい」トフティ教授が咎とがめるように言った。「試験中じゃよ」