しかし、もう誰も星座図など見てはいなかった。ハグリッドの小屋の周りで赤い光線が飛び交かい続けていた。しかし、光線はなぜかハグリッドの体で撥はね返されているようだ。ハグリッドは依然いぜんとしてがっしりと立ち、ハリーの見るかぎりまだ戦っていた。怒号どごうと叫さけび声が校庭に響ひびき渡った。
「おとなしくするんだ、ハグリッド」男が叫んだ。
「おとなしくが糞喰クソくらえだ。ドーリッシュ、こんなことで俺おれは捕つかまらんぞ」ハグリッドが吼ほえた。
ファングの姿が小さく見えた。ハグリッドを護まもろうと、周りの魔法使いに何度も飛びかかっている。しかし、ついに「失神しっしん光線」に撃うたれ、ばったり倒れた。ハグリッドは怒りに吼え、ファングを倒した犯人はんにんを体ごと持ち上げて投げ飛ばした。男は数メートルも吹っ飛んだろうか、そのまま起き上がらなかった。ハーマイオニーは両手で口を押さえ、息を呑のんだ。ハリーがロンを振り返ると、ロンも恐きょう怖ふの表情を浮かべていた。三人とも、いままでハグリッドが本気で怒ったのを見たことがなかった。
「見て」
手て摺すり壁かべから身を乗り出していたパーバティが金切かなきり声ごえを上げ、城の真下を指差した。正面扉とびらが再び開いていた。暗い芝生しばふにまた光がこぼれ、一つの細長い影が、芝生を波立たせて進んで行った。
「ほれ、ほれ」トフティ教きょう授じゅが気を揉もんだ。「あと十六分しかないのですぞ」
しかし、いまや誰一人として教授の言うことに耳を傾けてはいなかった。ハグリッドの小屋を目指し、戦いの場へと疾走しっそうする人影を見つめていた。
「何ということを」人影が走りながら叫んだ。「何ということを」
「マクゴナガル先生だわ」ハーマイオニーが囁ささやいた。
「おやめなさい やめるんです」マクゴナガル先生の声が闇やみを走った。「何の理由があって攻撃こうげきするのです 何もしていないのに。こんな仕打ちを――」
ハーマイオニー、パーバティ、ラベンダーが悲鳴ひめいを上げた。小屋の周りの人影から、四本もの「失神光線」がマクゴナガル先生めがけて発射はっしゃされた。小屋と城のちょうど半なかばで、赤い光線がマクゴナガル先生を突つき刺さした。一いっ瞬しゅん、先生の体が輝かがやき、不ぶ気き味みな赤い光を発した。そして体が撥ね上がり、仰向あおむけにドサッと落下し、そのまま動かなくなった。
「南な無む三さん」試験のことをすっかり忘れてしまったかのように、トフティ教授が叫んだ。
「不ふ意い打うちだ けしからん仕業しわざだ」