「卑ひ怯きょう者もん」ハグリッドが大だい音おん声じょうで叫んだ。
その声は塔とうのてっぺんまでにもはっきり聞こえた。城の中でもあちこちで灯あかりが点つきはじめた。
「とんでもねえ卑ひ怯きょう者もんめ これでも食らえ――これでもか――」
「あーっ――」ハーマイオニーが息を呑んだ。
ハグリッドが一番近くで攻撃こうげきしていた二つの人影に思いっ切りパンチをかました。あっという間に二人が倒れた。気絶きぜつしたらしい。ハリーはハグリッドが背中を丸めて前屈まえかがみになるのを見た。ついに呪じゅ文もんに倒れたかのように見えた。しかし、倒れるどころか、ハグリッドは次の瞬しゅん間かん、背中に袋のようなものを背負ってぬっと立ち上がった。――ぐったりしたファングを肩に担かついでいるのだと、ハリーはすぐ気づいた。
「捕つかまえなさい、捕まえろ」アンブリッジが叫さけんだ。しかし一人残った助すけっ人とはハグリッドの拳こぶしの届く範囲はんいに近づくのをためらっていた。むしろ、急いで後退あとずさりしはじめ、気絶きぜつした仲間なかまの一人に躓つまずいて転んだ。ハグリッドは向きを変え、首にファングを巻きつけるように担いだまま、走り出した。アンブリッジが「失しっ神しん光こう線せん」で最後の追おい討うちをかけたが、はずれた。ハグリッドは全速力で遠くの校門へと走り、闇やみに消えた。
静せい寂じゃくに震ふるえが走り、長い一いっ瞬しゅんが続いた。全員が口を開けたまま校庭を見つめていた。やがてトフティ教きょう授じゅが弱々しい声で言った。「うむ……みなさん、あと五分ですぞ」
ハリーはまだ三分の二しか図を埋めていなかったが、早く試験が終ってほしかった。ようやく終ると、ハリー、ロン、ハーマイオニーは望遠鏡をいい加減かげんにケースに押し込み、螺ら旋せん階かい段だんを飛ぶように下りた。生徒は誰も寮りょうには戻らず、階段の下で、いま見たことを興こう奮ふんして大声で話し合っていた。
「あの悪魔あくま」ハーマイオニーが喘あえぎながら言った。怒りでまともに話もできないほどだった。「真夜中にこっそりハグリッドを襲おそうなんて」
「トレローニーの二にの舞まいを避さけたかったのは間違いない」アーニー・マクミランが、人垣ひとがきを押し分けて三人の会話に加わり、思し慮りょ深ぶかげに言った。
「ハグリッドはよくやったよな」ロンは感心したというより怖こわいという顔で言った。「どうして呪文が撥はね返ったんだろう」
「巨人の血のせいよ」ハーマイオニーが震えながら言った。「巨人を『失神』させるのはとても難しいわ。トロールと同じで、とってもタフなの……でもおかわいそうなマクゴナガル先生……『失神光線』を四本も胸に。もうお若くはないでしょう」
「ひどい、実にひどい」アーニーはもったいぶって頭を振った。「さあ、僕はもう寝るよ。みんな、おやすみ」
いま目もく撃げきしたことを興奮冷さめやらずに話しながら、三人の周りからだんだん人が去って行った。
「少なくとも、連中はハグリッドをアズカバン送りにできなかったな」ロンが言った。
「ハグリッドはダンブルドアのところへ行ったんだろうな」
「そうだと思うわ」ハーマイオニーは涙ぐんでいた。「ああ、ひどいわ。ダンブルドアがすぐに戻っていらっしゃると、ほんとにそう思ってたのに、こんどはハグリッドまでいなくなってしまうなんて」