「行きません……医い務む室しつに行く必要はありません……行きたくない……」
トフティ教きょう授じゅを振り解ほどこうとしながら、ハリーは切れ切れに言葉を吐はいた。生徒が一斉いっせいに見つめる中を、ハリーを支えて玄げん関かんホールまで連れ出したトフティ教授は気遣きづかわしげにハリーを見ていた。
「僕――僕、何でもありません。先生」ハリーは顔の汗を拭ぬぐい、つっかえながら言った。「大だい丈じょう夫ぶです……眠ってしまって……怖こわい夢を見て……」
「試験のプレッシャーじゃな」老魔法使いは、ハリーの肩をわなわなする手で軽く叩たたきながら、同情するように言った。「さもありなん、お若いの、さもありなん さあ、冷たい水を飲んで。大広間に戻っても大丈夫かの 試験はもうほとんど終っておるが、最後の答えの仕上げをしてはどうかな」
「はい」ハリーは自分が何を答えたのかもわかっていなかった。「あの……いいえ……もう、いいです……できることはやったと思いますから……」
「そうか、そうか」老魔法使いはやさしく言った。「私が君の答案用紙を集めようの。君はゆっくり横になるがよい」
「そうします」ハリーはこっくりと頷うなずいた。「ありがとうございます」
老教授の踵かかとが大広間の敷居しきいの向こうに消えたとたん、ハリーは大だい理り石せきの階段を駆かけ上がり、廊下ろうかを突っ走った。あまりの速さに、通り道の肖しょう像ぞう画ががブツブツ非難ひなんした。さらに何階かの階段を矢のように走り、最後は医務室の両開き扉とびらを開けて嵐あらしのように突っ込んだ。マダム・ポンフリーが――ちょうどモンタギューに口を開けさせ、鮮あざやかなブルーの液体えきたいをスプーンで飲ませているところだった――驚おどろいて悲鳴ひめいを上げた。
「ポッター、どういうつもりです」
「マクゴナガル先生にお会いしたいんです」ハリーが息も絶たえ絶だえに言った。「いますぐ……緊きん急きゅうなんです」
「ここにはいませんよ、ポッター」マダム・ポンフリーが悲しそうに言った。「今朝、聖せいマンゴに移されました。あのお歳としで、『失しっ神しん光こう線せん』が四本も胸を直ちょく撃げきでしょう 命があったのが不ふ思し議ぎなくらいです」
「先生が……いない」ハリーはショックを受けた。