ハリーは答えもせず、部屋から飛び出し、外でうろうろ屯たむろしている生徒たちを掻かき分けはじめた。二つ上の階で、シェーマスとディーンに出くわした。二人は陽気ようきにハリーに挨あい拶さつし、今晩こんばん、寮りょうの談だん話わ室しつで、試験終了のお祝いを明け方まで夜明かしでやる計画だと話した。ハリーはほとんど聞いていなかった。二人がバタービールを闇やみで何本調ちょう達たつする必要があるかを議論ぎろんしているうちに、ハリーは肖しょう像ぞう画がの穴を這はい登った。「透とう明めいマント」とシリウスのナイフをしっかりカバンに入れて肖像画の穴から戻ってきたとき、二人はハリーが途と中ちゅうでいなくなったことにさえ気づいていなかった。
「ハリー、ガリオン金貨を二、三枚寄き付ふしないか ハロルド・ディングルがファイア・ウィスキーを少し売れるかもしれないって言うんだけど――」
しかし、ハリーはもう、猛烈もうれつな勢いで廊下ろうかを駆かけ戻っていた。数分後に、最後の二、三段は階段を飛び下りて、ロン、ハーマイオニー、ジニー、ルーナのところへ戻った。四人はアンブリッジの部屋がある廊下の端に塊かたまっていた。
「取ってきた」ハリーがハァハァ言った。「それじゃ、準備はいいね」
「いいわよ」ハーマイオニーがヒソヒソ声で言った。ちょうどやかましい六年生の一団が通り過ぎたところだった。「じゃ、ロン――アンブリッジを牽制けんせいしに行って……ジニー、ルーナ、みんなを廊下から追い出しはじめてちょうだい……ハリーと私は『マント』を着て、周りが安全になるまで待つわ……」
ロンが大股おおまたで立ち去った。真まっ赤かな髪かみが廊下の向こう端に行くまで見えていた。ジニーは、押し合いへし合いしている生徒の間を縫ぬって、赤毛頭を見え隠れさせながら廊下の反対側に向かった。そのあとを、ルーナのブロンド頭がついて行った。
「こっちに来て」ハーマイオニーがハリーの手首をつかみ、石の胸きょう像ぞう裏うらの窪くぼんだ場所に引っ張り込んだ。中世の醜みにくい魔法使いの胸像は、台の上でブツブツ独ひとり言ごとを言っていた。
「ねえ――ハリー、本当に大だい丈じょう夫ぶなの まだとっても顔色が悪いわ」
「大丈夫」ハリーはカバンから「透明マント」を引っ張り出しながら、短く答えた。たしかに傷きず痕あとは疼うずいていたが、それほどひどくはなかったので、ハリーはヴォルデモートがまだシリウスに致ち命めい傷しょうは与えていないという気がした。ヴォルデモートがエイブリーを罰ばっしたときはこんな痛みよりもっとひどかった……。
「ほら」ハリーは「透明マント」をハーマイオニーと二人で被かぶった。目の前の胸像がラテン語でブツブツ独り言を言うのを聞き流し、二人は耳をそばだてた。
“哈利,你愿意捐助一些加隆吗?哈罗德·丁戈也许能卖给我们一些热火威士忌—— ”