部屋がしんとなった。ただ、スリザリン生がロンやほかの捕虜ほりょを押さえつけようと揉もみ合い、すったもんだする音だけが聞こえた。ロンはワリントンの羽は交がい締じめに抵抗ていこうして、唇くちびるから血を流し、アンブリッジの部屋の絨じゅう毯たんに滴したたらせていた。ジニーは両腕をがっちりつかまれながらも、六年生の女子生徒の足を踏ふみつけようと、まだがんばっていた。ネビルはクラッブの両腕を引っ張りながらも、顔がだんだん紫むらさき色いろになってきていた。ハーマイオニーはミリセント・ブルストロードを撥はね退のけようと、虚むなしく抵抗していた。しかし、ルーナは自分を捕とらえた生徒のそばにだらんと立ち、成なり行ゆきに退屈たいくつしているかのように、ぼんやり窓の外を眺ながめていた。
ハリーは、自分をじっと見つめているアンブリッジを見返した。廊下ろうかで足音がしても、ハリーは意識的に無表情で平気な顔をしていた。ドラコ・マルフォイが戻ってきて、ドアを押さえてスネイプを部屋に入れた。
「校長、お呼びですか」スネイプは揉み合っている二人組たちを、まったく無む関かん心しんの表情で見回しながら言った。
「ああ、スネイプ先生」アンブリッジがニコーッと笑って立ち上がった。「ええ、『真しん実じつ薬やく』をまた一瓶ひとびんほしいのですが、なるべく早くお願いしたいの」
「最後の一瓶を、ポッターを尋じん問もんするのに持っていかれましたが」スネイプは、簾すだれのようなねっとりした黒くろ髪かみを通して、アンブリッジを冷静れいせいに観察かんさつしながら答えた。「まさか、あれを全部使ってしまったということはないでしょうな 三滴てきで十分だと申し上げたはずですが」
アンブリッジが赤くなった。
「もう少し調ちょう合ごうしていただけるわよね」憤慨ふんがいするといつもそうなるのだが、アンブリッジの声がますます甘ったるく女の子っぽくなった。
「もちろん」スネイプはフフンと唇を歪ゆがめた。「成せい熟じゅくするまでに満月から満月までを要するので、大体一ヵ月で準備できますな」
「一ヵ月」アンブリッジがガマガエルのように膨ふくれてがなり立てた。「一ヵ月 わたくしは今夜必要なのですよ、スネイプ たったいま、ポッターがわたくしの暖炉だんろを使って誰だか知りませんが、一人、または複数ふくすうの人間と連れん絡らくしていたのを見つけたのです」
「ほう」スネイプはハリーを振り向き、初めて微かすかな興きょう味みを示した。「まあ、驚おどろくにはあたりませんな。ポッターはこれまでも、あまり校こう則そくに従う様子を見せたことがありませんので」