「人間よ、さあ、誰の森だ」ベインが声を轟かせた。
「汚けがらわしい半獣」アンブリッジは両手でがっちり頭を覆おおいながら叫んだ。「けだもの 手に負えない動物め」
「黙だまって」ハーマイオニーが叫んだが、遅おそすぎた。アンブリッジはマゴリアンに杖を向け、金切かなきり声ごえで唱となえた。「インカーセラス 縛しばれ」
ロープが太い蛇へびのように空中に飛び出してケンタウルスの胴体にきつく巻きつき、両腕を捕とらえた。マゴリアンは激怒して叫び、後脚あとあしで立ち上がって縄なわを振り解ほどこうとした。他のケンタウルスが襲おそいかかってきた。
ハリーはハーマイオニーをつかみ、引っ張って地面に押しつけた。周りに雷のような蹄ひづめの音が鳴り響ひびき、ハリーは恐きょう怖ふを覚えながら地面じべたに顔を伏ふせていた。しかしケンタウルスは、怒りに叫さけび、吠ほえ哮たけりながら、二人を飛び越えたり迂回うかいしたりしていた。
「やめてぇぇぇぇぇ」アンブリッジの悲鳴ひめいが聞こえた。「やめてぇぇぇぇぇ……わたくしは上じょう級きゅう次じ官かんよ……おまえたちなんかに――放はなせ、けだもの……ぁぁぁぁぁぁ」
ハリーは赤い閃光せんこうが一本走るのを見た。アンブリッジがどれか一頭を失神しっしんさせようとしたに違いない。次の瞬しゅん間かん、アンブリッジが大きな悲鳴を上げた。ハリーが頭をわずかに持ち上げて見ると、アンブリッジが背後からベインに捕とらえられ、空中高く持ち上げられて恐怖に叫びながらもがいていた。杖つえが手を離はなれて地上に落ちた。ハリーは心が躍おどった。手が届きさえすれば――。しかし、杖に手を伸ばしたとき、一頭のケンタウルスの蹄がその上に下りてきて、杖は真っ二つに折れた。
「さあ」ハリーの耳に吠え声が聞こえ、太い毛深い腕がどこからともなく下りてきて、ハリーを引っ張り起こした。ハーマイオニーも同じく引っ張られ、立たせられた。さまざまな色のケンタウルスの背中や首が激はげしく上下するその向こうに、ハリーはベインに連れ去られて行くアンブリッジの姿を木この間隠まがくれに見た。ひっきりなしに悲鳴を上げていたが、その声はだんだん微かすかになり、蹄で地面を蹴ける周りの音に掻かき消されてついに聞こえなくなった。