ハリーには「ハガー」が何のことかも、何の言語なのかもわからなかったが、それもどうでもよかった。ハリーは、ほとんどハリーの背丈せたけほどもあるグロウプの両足を見つめていた。ハーマイオニーはハリーの腕にしっかりしがみついていた。ケンタウルスは静まり返って巨人を見つめていた。グロウプは、何か落し物でも探すように、ケンタウルスの間を覗のぞき込こみ続け、巨大な丸い頭を右に左に振っている。
「ハガー」グロウプはさっきよりしつこく言った。
「ここを立ち去れ、巨人よ」マゴリアンが呼びかけた。「我らにとって、おまえは歓迎かんげいされざる者だ」
グロウプにとって、この言葉は何の印象も与えなかったようだ。少し前屈まえかがみになりケンタウルスが弓を引き絞しぼった、また声を轟とどろかせた。「ハガー」
数頭のケンタウルスが、こんどは心配そうな戸惑とまどい顔をした。しかし、ハーマイオニーはハッと息を呑のんだ。
「ハリー」ハーマイオニーが囁ささやいた。「『ハグリッド』って言いたいんだと思うわ」
まさにこのとき、グロウプは二人に目を止めた。一面のケンタウルスの群れの中に、たった二人の人間だ。グロウプはさらに二、三十センチ頭を下げ、じっと二人を見つめた。ハリーはハーマイオニーが震ふるえているのを感じた。グロウプは再び大きく口を開け、深く轟く声で言った。「ハーミー」
「まあ」ハーマイオニーはいまにも気を失いそうな様子で言った。ハーマイオニーがあまりきつく握にぎり締しめるので、ハリーは腕が痺しびれかけていた。「お――憶おぼえてたんだわ」
「ハーミー」グロウプが吼ほえた。「ハガー、どこ」
「知らないの」ハーマイオニーが悲鳴ひめいに近い声を出した。「ごめんなさい、グロウプ、私、知らないの」
「グロウプ ハガー ほしい」
巨人の巨大な片手かたてが下に伸びてきた。ハーマイオニーはこんどこそ本物の悲鳴を上げ、二、三歩走るように後退あとずさりして、ひっくり返った。巨人の手がハリーのほうに襲おそいかかり、白毛のケンタウルスの脚あしをなぎ倒したとき、ハリーは覚悟かくごを決めた。杖つえなしで、パンチでもキックでも噛かみつきでも、何でもやってやる。