もしも、遅おそすぎたら……。
シリウスはまだ生きている。戦っている。僕はそれを感じている……。
もしも、ヴォルデモートがシリウスは屈服くっぷくしないと見切りをつけたら……。
僕にもわかるはずだ……。
ハリーの胃袋がぐらっとした。セストラルの頭が、急に地上を向き、ハリーは馬の首に沿そって少し前に滑った。ついに降おりはじめたのだ……背後で悲鳴ひめいが聞こえたような気がした。ハリーは危あぶなっかしげに身を捩よじって振り返ったが、誰かが落ちていく様子はなかった……たぶん、ハリーがいま感じたのと同じように、方向転換てんかんで全員が衝しょう撃げきを受けたのだろう。
前後左右の明るいオレンジ色の灯あかりがだんだん大きく丸くなってきた。全員の目に建物の屋根が見え、光る昆こん虫ちゅうの目のようなヘッドライトの流れや、四角い淡たん黄こう色しょくの窓明まどあかりが見えた。出し抜けに、という感じで、全員が矢のように歩道に突っ込んで行った。ハリーは最後の力を振り絞しぼってセストラルにしがみつき、急な衝しょう撃げきに備そなえた。しかし、馬はまるで影かげ法ぼう師しのように、ふわりと暗い地面に着地した。ハリーはその背中から滑すべり降おり、通りを見回した。打ち壊こわされた電話ボックスも、少し離はなれたところにあるゴミの溢あふれた大型おおがたゴミ運うん搬ぱん容よう器きも以前のままだった。どちらも、街灯がいとうのギラギラしたオレンジ一色を浴あび、色彩しきさいを失っていた。
ロンが少し離れたところに着地し、たちまちセストラルから歩道に転げ落ちた。
「懲こりごりだ」ロンがもそもそ立ち上がりながら言った。セストラルから大股おおまたで離れるつもりだったらしいが、なにしろ見えないので、その尻しりに衝しょう突とつしてまた転びかけた。「二度と、絶対いやだ……最悪だった――」
ハーマイオニーとジニーがそれぞれロンの両りょう脇わきに着地して、二人ともロンよりは少し優雅ゆうがに滑り降りたが、ロンと同じように、しっかりした地上に戻れてほっとした顔だった。ネビルは震ふるえながら飛び降り、ルーナはすっと下げ馬ばした。
「それで、ここからどこ行くの」ルーナはまるで楽しい遠足でもしているように、一応、行き先に興きょう味みを持っているような聞き方をした。
「こっち」ハリーは感謝かんしゃを込めてちょっとセストラルを撫なで、先頭を切って壊れた電話ボックスへと急ぎ、ドアを開けた。「入れよ。早く」逡巡ためらっているみんなを、ハリーは促うながした。