電話ボックスのドアがパッと開いた。ハリーがボックスから転がり出た。ネビルとルーナがそれに続いた。アトリウムには、黄金の噴水ふんすいが絶たえ間まなく吹き上げる水音しかない。魔法使いと魔女の杖、ケンタウルスの矢尻やじり、小こ鬼おにの帽子ぼうしの先、しもべ妖よう精せいの両耳から、間断かんだんなく水が噴ふき上げ、周りの水すい盆ぼんに落ちていた。
「こっちだ」ハリーが小声で言った。六人はホールを駆かけ抜けた。ハリーは先頭に立って噴水を通り過ぎ、守しゅ衛えい室しつに向かった。ハリーの杖を計けい量りょうしたガード魔マンが座っていたデスクだが、いまは誰もいない。
ハリーは必ず守衛がいるはずだと思っていた。いないということは不吉ふきつな徴しるしに違いないと思った。エレベーターに向かう金色こんじきの門をくぐりながら、ハリーはますますいやな予感を募つのらせた。ハリーは一番近くののボタンを押した。エレベーターがほとんどすぐにガタゴトと現れ、金の格こう子し扉とびらがガチャガチャ大きな音を響ひびかせて横に開いた。みんなが飛び乗った。ハリーが9を押すと、扉がガチャンと閉まり、エレベーターがジャラジャラ、ガラガラ降おり出した。ウィーズリーおじさんと来た日には、エレベーターがこんなにうるさいことにハリーは気づかなかった。こんな騒音なら、建物の中にいるガード魔ンが一人残らず気づくだろうと思った。しかし、エレベーターが止まると、落ち着きはらった女性の声が告げた。
「神しん秘ぴ部ぶです」
格子扉が横に開いた。廊下ろうかに出ると、何の気配もなかった。動くものは、エレベーターからの一陣いちじんの風で揺ゆらめく手近の松明たいまつしかない。
ハリーは取っ手のない黒い扉に向かった。何ヵ月も夢に見たその場所に、ハリーはついにやって来た。
「行こう」そう囁ささやくと、ハリーは先頭に立って廊下を歩いた。ルーナがすぐ後ろで、口を少し開け、周りを見回しながらついて来た。
「オーケー、いいか」ハリーは扉とびらの二メートルほど手前で立ち止まった。「どうだろう……何人かはここに残って――見張りとして、それで――」
「それで、何かが来たら、どうやって知らせるの」ジニーが眉まゆを吊つり上げた。「あなたはずーっと遠くかもしれないのに」
「みんな君と一いっ緒しょに行くよ、ハリー」ネビルが言った。
「よし、そうしよう」ロンがきっぱりと言った。
ハリーは、やはりみんなを連れて行きたくなかった。しかし、それしか方法はなさそうだった。ハリーは扉のほうを向き、歩き出した……夢と同じように、扉がパッと開き、ハリーは前進した。みんながあとに続いて扉を抜けた。