赤い閃光が飛び、死喰い人の右肩を通り過ぎて、さまざまな形の砂時計がぎっしり詰つまった壁際かべぎわのガラス戸棚とだなに当たった。戸棚は床に倒れ、バラバラに砕くだけてガラスが四し方ほう八はっ方ぽうに飛び散った。と思ったら、またひょいと壁際に戻もどり、完全に元どおりになっていた。そしてまた倒れ、またばらばらになった――。
死喰い人が、輝かがやく釣鐘つりがねの脇わきに落ちていた自分の杖をさっと拾ひろった。男が振り向き、ハリーは机の陰かげに身を屈かがめた。死喰い人のフードがずれて、目を塞ふさいでいた。男は空あいている手でフードをかなぐり捨すて、叫んだ。
「麻――」
「麻痺せよ」ちょうど追いついたハーマイオニーが叫んだ。赤い閃光が死喰い人の胸の真ん中に当たった。男は杖を構かまえたまま硬こう直ちょくした。杖がカラカラと床に落ち、男は仰向あおむけに釣鐘のほうに倒れた。釣鐘の硬かたいガラスにぶつかるゴツンという音がして、男がずるずると床まで滑すべり落ちるだろうとハリーは思った。ところが男の頭は、まるでシャボン玉でできた釣鐘を突き抜けるように中に潜もぐり込んだ。男は釣鐘の載のったテーブルに大の字に倒れ、頭だけをキラキラした風が詰まった釣鐘の中に横たえて、動かなくなった。
「アクシオ 杖つえよ来い」ハーマイオニーが叫んだ。
ハリーの杖が片隅かたすみの暗がりからハーマイオニーの手の中に飛び込み、ハーマイオニーがそれをハリーに投げた。
「ありがとう」ハリーが言った。「よし、ここを出――」
「見て」ネビルがぞっとしたような声を上げた。その目は釣鐘の中の死喰い人の頭を見つめていた。
三人ともまた杖を構えた。しかし、誰も攻撃こうげきしなかった。男の頭の様子を、三人とも口を開け、呆気あっけに取られて見つめた。
頭は見る見る縮ちぢんでいった。だんだんつるつるになり、黒い髪かみも無ぶ精しょうひげも頭ず骸がい骨こつの中に引っ込み、頬ほおは滑なめらかに、頭蓋骨は丸くなり、桃もものような産毛うぶげで覆おおわれた……。
赤ん坊の頭だ。再び立ち上がろうともがく死し喰くい人びとの太い筋きん肉にく質しつの首に、赤子あかごの頭が載のっているさまは奇怪きっかいだった。しかし、三人が口をあんぐり開けて見ている間にも、頭は膨ふくれはじめ、元の大きさに戻り、太い黒い毛が頭皮とうひから、顎あごからと生はえてきた……。
「『時とき』だわ」ハーマイオニーが恐れ戦おののいた声で言った。「『時』なんだわ……」
死喰い人が頭をすっきりさせようと、元のむさくるしい頭を振った。しかし意識がしっかりしないうちに頭がまた縮ちぢみ出し、赤ん坊に戻りはじめた。
近くの部屋で叫さけぶ声がし、衝しょう撃げき音おんと悲鳴ひめいが聞こえた。
「ロン」目の前で展開てんかいしているぞっとするような変身から急いで目を背そむけ、ハリーは大声で呼びかけた。「ジニー ルーナ」
「ハリー」ハーマイオニーが悲鳴を上げた。