ハリーは扉から首を突き出して用心深くあたりを見回した。赤ん坊頭の死喰い人が泣き叫さけび、あちこちぶつかり、床置ゆかおき時計を倒し、机をひっくり返し、喚わめき、混乱こんらんしていた。ガラス張りの戸棚とだなは、たぶん「逆ぎゃく転てん時ど計けい」が入っていたのではないかと、いまハリーはそう思った。倒れては壊こわれ、壊れては元どおりになって壁かべに立っていた。
「あいつは絶対僕たちに気づかないよ」ハリーが囁ささやいた。「さあ……僕から離はなれないで……」
ハリーたちはそっと小部屋を抜け出し、黒いホールに続く扉とびらへと戻って行った。ホールはいま、まったく人影がない。二人はまた二、三歩前進した。ネビルはハーマイオニーの重みで少しよろめきながら歩いた。「時ときの間ま」の扉はハリーたちがホールに入るとバタンと閉まり、ホールの壁がまた回転しはじめた。さっき後頭部を打ったことで、ハリーは安定感を失っているようだった。目を細め、少しふらふらしながら、ハリーは壁の動きが止まるのを待った。ハーマイオニーの燃えるような×クロス印が消えてしまっているのを見て、ハリーはがっかりした。
「さあ、どっちの方向だと――」
しかし、どっちに行くかを決めないうちに、右側の扉がパッと開き、人が三人倒れ込んできた。
「ロン」ハリーは声をからし、三人に駆かけ寄った。「ジニー――みんな大丈だいじょ――」
「ハリー」ロンは力なくエヘヘと笑い、よろめきながら近づいて、ハリーのローブの前をつかみ、焦しょう点てんの定まらない目でじっと見た。「ここにいたのか……ハハハ……ハリー、変な格好かっこうだな……めちゃくちゃじゃないか……」
ロンの顔は蒼そう白はくで、口の端はしから何かどす黒いものがタラタラ流れていた。次の瞬しゅん間かん、ロンはがっくりと膝ひざをついた。しかし、ハリーのローブをしっかりつかんだままだ。ハリーは引っ張られてお辞じ儀ぎする形になった。
「ジニー」ハリーが恐おそる恐る聞いた。「何があったんだ」
しかし、ジニーは頭を振り、壁にもたれたままずるずると座り込み、ハァハァ喘あえぎながら踵かかとをつかんだ。