それぞれの扉の向こうに走ってくる足音が聞こえ、ときどき重い体が体当たりして扉が軋きしみ、震ふるえた。ルーナとネビルが反対側の壁の扉を呪文で封じていた――そして、ハリーが部屋の一番奥に来たとき、ルーナの叫さけび声が聞こえた。
「コロ――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁう……」
振り返ったとたん、ルーナが宙を飛ぶのが見えた。呪じゅ文もんが間に合わなかった扉とびらを破り、五人の死し喰くい人びとがなだれ込こんできた。ルーナは机にぶつかり、その上を滑すべって向こう側の床に落下し、そのまま伸びて、ハーマイオニーと同じように動かなくなった。
「ポッターを捕つかまえろ」ベラトリックスが叫び、飛びかかってきた。ハリーはそれをかわし、部屋の反対側に疾走しっそうした。予言に当たるかもしれないと、連中が躊ちゅう躇ちょしているうちは、僕は安全だ――。
「おい」ロンがよろよろと立ち上がり、ヘラヘラ笑いながら、ハリーのほうに酔よったような千ち鳥どり足あしでやってくるところだった。「おい、ハリー、ここには脳みそがあるぜ。ハハハ。気味が悪いな、ハリー」
「ロン、どくんだ。伏ふせろ――」
しかし、ロンはもう、水槽すいそうに杖つえを向けていた。
「ほんとだぜ、ハリー、こいつら脳みそだ――ほら――『アクシオ 脳みそよ、来い』」
一いっ瞬しゅん、すべての動きが止まったかのようだった。ハリー、ジニー、ネビル、そして死喰い人も一人残らず、我を忘れて水槽の上を見つめた。緑色の液体えきたいの中から、まるで魚が飛び上がるように、脳みそが一つ飛び出した。一瞬、それは宙に浮き、くるくる回転しながら、ロンに向かって高々と飛んできた。動く画像がぞうを連つらねたリボンのようなものが何本も、まるで映画のフィルムが解ほどけるように脳から尾を引いている――。
「ハハハ、ハリー、見ろよ――」ロンは、脳みそがけばけばしい中身を吐はき出すのを見つめていた。「ハリー、来て触さわってみろよ。きっと気味が――」
「ロン、やめろ」
脳みその尻尾しっぽのように飛んでくる何本もの「思考しこうの触しょく手しゅ」にロンが触ふれたらどうなるか、ハリーにはわからなかったが、よいことであるはずがない。電でん光こう石せっ火か、ハリーはロンのほうに走ったが、ロンはもう両手を伸ばして脳みそを捕まえていた。
ロンの肌はだに触れたとたん、何本もの触手が縄なわのようにロンの腕に絡からみつきはじめた。
「ハリー、どうなるか見て――あっ――あっ――いやだよ――ダメ、やめろ――やめろったら――」
しかし細いリボンは、いまやロンの胸にまで巻きついていた。ロンは引っ張り、引きちぎろうとしたが、脳みそはタコが吸いつくように、しっかりとロンの体を絡め取っていた。