アトリウムは人で溢あふれていた。片側かたがわの壁かべに並んだ暖炉だんろのすべてに火が燃え、そのエメラルド色の炎が床を照らしていた。暖炉から、次々と魔法使い、魔女たちが現れ出ていた。ダンブルドアに助け起こされたハリーは、しもべ妖よう精せいと小こ鬼おにの小さい黄金の立像が、唖然あぜんとした顔のコーネリウス・ファッジを連れてやってくるのを見た。
「『あの人』はあそこにいた」紅くれないのローブにポニーテールの男が、ホールの反対側の金色こんじきの瓦礫がれきの山を指差して叫さけんだ。そこは、さっきまでベラトリックスが押さえつけられていた場所だ。「ファッジ大臣、私は『あの人』を見ました。間違いなく、『例のあの人』でした。女を引っつかんで、『姿すがたくらまし』しました」
「わかっておる、ウィリアムソン、わかっておる。私も『あの人』を見た」ファッジはしどろもどろだった。細縞ほそじまのマントの下はパジャマで、何キロも駆かけてきたかのように息を切らしている。「なんとまあ――ここで――ここで――魔法省で――あろうことか――ありえない――まったく――どうしてこんな――」
「コーネリウス、下の神しん秘ぴ部ぶに行けば――」ダンブルドアが言った。ハリーが無事なのに安堵あんどしたらしく、ダンブルドアは前に進み出た。新しく到とう着ちゃくした魔法使いたちは、ダンブルドアがいることに初めて気づいた何人かは杖つえを構かまえた。あとはただ呆然ぼうぜんと見つめるばかりだった。しもべ妖精と小鬼の像は拍はく手しゅした。ファッジは飛び上がり、スリッパ履ばきの両足が床から離はなれた。「――脱獄だつごくした死し喰くい人びとが何人か、『死しの間ま』に拘束こうそくされておるのがわかるじゃろう。『姿すがたくらまし防ぼう止し呪じゅ文もん』で縛しばってある。大臣がどうなさるのか、処分しょぶんを待っておる」
「ダンブルドア」ファッジが興こう奮ふんで我を忘れ、息を呑のんだ。「おまえ――ここに――私は――私は――」
ファッジは一いっ緒しょに連れてきた闇やみ祓ばらいたちをキョロキョロと見回した。誰が見ても、ファッジが「捕つかまえろ」と叫さけぶかどうか迷っていることは明らかだった。
「コーネリウス、わしはおまえの部下と戦う準備はできておる。――そして、また勝つ」ダンブルドアの声が轟とどろいた。「しかし、ついいましがた、きみはその目で、わしが一年間きみに言い続けてきたことが真実じゃったという証しょう拠こを見たであろう。ヴォルデモート卿きょうは戻ってきた。この十二ヵ月、きみは見当違いの男を追っていた。そろそろ目覚めるときじゃ」
「私は――別に――まあ――」ファッジは虚勢きょせいを張り、どうするべきか誰か教えてくれというように周りを見回した。誰も何も言わないので、ファッジが言った。「よろしい――ドーリッシュ ウィリアムソン 神しん秘ぴ部ぶに行って見てこい……ダンブルドア、おまえ――君は、正確に私に話して聞かせる必要が――『魔ま法ほう界かいの同胞どうほうの泉』――いったいどうしたんだ」最後は半べそになり、ファッジは魔法使い、魔女、ケンタウルス像の残骸ざんがいが散らばっている床を見つめた。