「ええ、そうです」ハリーが低い声で言った。「でも――おばさんより、おじさんのほうがそうでした。おじさんは僕を追い出したがった。でもおばさんに『吼えメール』が届いて――おばさんは僕に家にいろって」
ハリーはしばらく床を見つめていたが、やがて言った。「でも、それと……どういう関係が――」
ハリーはシリウスの名を口にすることができなかった。
「そして五年前」ダンブルドアは話が中断されなかったかのように語り続けた。「きみがホグワーツにやって来た。幸福で、丸々とした子であってほしいというわしの願いどおりの姿ではなかったかもしれぬが、それでも健康で、生きていた。ちやほやされた王子様ではなく、あのような状況の中でわしが望みうるかぎりの、まともな男の子だった。そこまでは、わしの計画はうまくいっていたのじゃ」
「ところが……まあ、ホグワーツでの最初の年の事件のことは、きみもわしと同様、よく憶おぼえておろう。きみは向かってきた挑ちょう戦せんを、見事に受けて立った。しかも、あんなに早く――わしが予想していたよりずっと早い時期に、きみはヴォルデモートと真正面から対決した。きみは再び生き残った。そればかりではない。きみは、あやつが復活して全能力を持つのを遅おくらせたのじゃ。きみは立派な男として戦った。わしは……誇ほこらしかった。口では言えないほど、きみが誇らしかった」
「しかし、わしのこの見事な計画には欠陥けっかんがあった」ダンブルドアが続けた。「明らかな弱点じゃ。それが計画全体を台無だいなしにしてしまうかもしれないと、そのときすでにわしにはわかっていた。それでも、この計画を成功させることがいかに重要かを思うにつけ、わしは、この欠陥が計画を台無しにすることなど許しはせぬと、自みずからに言い聞かせたのじゃ。わしだけが問題を防ふせぐことができるのじゃから、わしだけが強くあらねばならぬと。そして、わしにとって最初の試練しれんがやって来た。きみがヴォルデモートとの戦いに弱り果て、医い務む室しつで横になっていたときのことじゃ」
「先生のおっしゃっていることがわかりません」ハリーが言った。
「憶おぼえておらぬか 医務室で横たわり、きみはこう聞いた。赤子あかごだったきみを『そもそもヴォルデモートはなんで殺したかったのでしょう』とな」
ハリーが頷うなずいた。
「わしはそのときに話して聞かせるべきじゃったか」
ハリーはブルーの瞳ひとみをじっと覗のぞき込こんだが、何も言わなかった。心臓が早鐘はやがねを打ちはじめた。