ロンとハーマイオニーが完治かんちして退院したのは、学期が終わる三日前だった。ハーマイオニーは、しょっちゅうシリウスのことを話したそうな素そ振ぶりを見せたが、シリウスの名前をハーマイオニーが口にするたびに、ロンは「シーッ」という音を出した。名な付づけ親おやの話をしたいのかどうか、ハリーにはまだよくわからなかった。そのときそのときで気持が揺ゆれた。しかし、一つだけはっきりしているのは、たしかにいまは不幸でも、数日後にプリベット通り四番地に帰ったときには、ホグワーツがとても恋しくなるだろうということだ。夏休みのたびにそこに帰らなければならない理由がはっきりわかったいまになっても、だからといって帰るのが楽しくなったわけではない。むしろ、帰るのがこんなに怖こわかったことはない。
アンブリッジ先生は、学期が終る前の日にホグワーツを去った。夕食時にこっそり医い務む室しつを抜け出したらしい。誰にも気づかれずに出発したかったからに違いないが、アンブリッジ先生にとっては不幸なことに、途と中ちゅうでピーブズに出会ってしまった。ピーブズは、フレッドに言われたことを実行する最後のチャンスとばかり、歩行用の杖つえとチョークを詰つめ込こんだソックスとで交互にアンブリッジ先生を殴なぐりつけながら追いかけ、嬉き々きとして城から追い出した。大勢の生徒が玄げん関かんホールに走り出て、アンブリッジ先生が小道を走り去るのを見物した。各寮りょうの寮りょう監かんが生徒たちを制止せいししたが、気が入っていなかった。マクゴナガル先生など、二、三回弱々しく諌いさめはしたものの、そのあとは教きょう職しょく員いんテーブルの椅子に深々と座り込み、ピーブズに自分の歩ほ行こう杖づえを貸かしてやったあとで、自分自身でアンブリッジを追いかけて囃はやし立ててやれないのは残ざん念ねん無む念ねん、と言っているのがはっきり聞こえた。
今学期最後の夜が来た。大多数の生徒はもう荷造にづくりを終え、学期末の宴えん会かいに向かっていたが、ハリーはまだ荷造りに取りかかってもいなかった。
「いいから明日にしろよ」ロンは寝室しんしつのドアのそばで待っていた。「行こう。腹ぺこだ」
「すぐあとから行く……ねえ、先に行ってくれ……」
しかし、ロンが寝室しんしつのドアを閉めて出て行ったあと、ハリーは荷造りを急ぎもしなかった。ハリーにとっていま一番いやなのは、「学年度末さよならパーティ」に出ることだった。ダンブルドアが挨あい拶さつするとき、ハリーのことに触ふれるのが心配だった。ヴォルデモートが戻ってきたことにも触れるに違いない。去年すでに、生徒たちにその話をしているのだから……。
ハリーはトランクの一番底から、くしゃくしゃになったローブを数枚引っ張り出し、たたんだローブと入れ替かえようとした。すると、トランクの隅すみに乱雑らんざつに包まれた何かが転がっているのに気づいた。こんなところに何があるのか見当もつかない。ハリーは屈かがんで、スニーカーの下になっている包みを引っ張り出し、よく見た。