「そうなんだろう」ハリーが答えを急せき立てた。「君は死んだ。でも僕は君と話している……君はホグワーツを歩き回れるし、いろいろ、そうだろう」
「ええ」「ほとんど首無しニック」が静かに言った。「私は歩きもするし、話もする。そうです」
「それじゃ、君は帰ってきたんでしょう」ハリーは急き込んだ。「人は、帰ってこれるんでしょう ゴーストになって。完全に消えてしまわなくともいいんでしょう どうなの」ニックが黙だまりこくっているので、ハリーは待ち切れないように答えを促うながした。
「ほとんど首無しニック」は躊ちゅう躇ちょしていたが、やがて口を開いた。「誰もがゴーストとして帰ってこられるわけではありません」
「どういうこと」ハリーはすぐ聞き返した。
「ただ……ただ、魔法使いだけです」
「ああ」ハリーはほっとして笑い出しそうだった。「じゃ、それなら大だい丈じょう夫ぶ。僕が聞きたかった人は、魔法使いだから。だったら、その人は帰ってこられるんだね」
ニックは窓から目を逸そらし、悼いたましげにハリーを見た。
「あの人は帰ってこないでしょう」
「誰が」
「シリウス・ブラックです」ニックが言った。
「でも、君は」ハリーが怒ったように言った。「君は帰ってきた――死んだのに、姿を消さなかった――」
「魔法使いは、地上に自らの痕跡こんせきを残していくことができます。生きていた自分がかつてたどった所を、影の薄うすい姿で歩くことができます」ニックは惨みじめそうに言った。「しかし、その道を選ぶ魔法使いは滅多めったにいません」
「どうして」ハリーが聞いた。「でも――そんなことはどうでもいいんだ――シリウスは、普通と違うことなんて気にしないもの。帰ってくるんだ。僕にはわかる」
間違いないという強い思いに、ハリーは本当に振り向いてドアを確かめた。絶対だ、シリウスが現れる。ハリーは一いっ瞬しゅんそう思った。真珠しんじゅのような半はん透とう明めいな白さで、にっこり笑いながら、ドアを突き抜けて、ハリーのほうに歩いてくるに違いない。