「先生、やめて! 触さわらないで――!」
「触ふれることはできぬ」
ダンブルドアは微笑ほほえんだ。
「ご覧らん。これ以上は近づくことができぬ。やってみるがよい」
ハリーは目を見張り、水すい盆ぼんに手を入れて液体に触れようとしたが、液面から二、三センチのところで見えない障しょう壁へきに阻はばまれた。どんなに強く押しても、指に触れるのは硬かたくてびくともしない空気のようなものだけだった。
「ハリー、離れていなさい」ダンブルドアが言った。
ダンブルドアは杖つえをかざし、液体の上で複雑ふくざつに動かしながら、無言で呪じゅ文もんを唱となえた。何事も起こらない。ただ、液体が少し明るく光ったような気がしただけだった。ダンブルドアが術をかけている間、ハリーは黙だまっていたが、しばらくしてダンブルドアが杖を引いたとき、もう話しかけても大丈夫だと思った。
「先生、分ぶん霊れい箱ばこはここにあるのでしょうか?」
「ああ、ある」
ダンブルドアは、さらに目を凝こらして水盆を覗のぞいた。ハリーには、緑色の液体の表面に、ダンブルドアの顔が逆さまに映うつるのが見えた。
「しかし、どうやって手に入れるか? この液体は手では突き通せぬ。『消しょう失しつ呪文』も効きかぬし、分けることも、すくうことも、吸い上げることもできぬ。さらに、『変へん身しん呪文』やその他の呪文でも、いっさいこの液体の正体を変えることができぬ」
ダンブルドアは、ほとんど無意識に再び杖を上げて空中でひとひねりし、どこからともなく現れたクリスタルのゴブレットをつかんだ。
「結論は唯ただ一つ、この液体は飲み干すようになっておる」
「ええっ?」ハリーが口走った。「だめです!」
「さよう、そのようじゃ。飲み干すことによってのみ、水盆の底にある物を見ることができるのじゃ」
「でも、もし――もし劇薬げきやくだったら?」
「いや、そのような効果を持つ物ではなかろう」
ダンブルドアは気軽に言った。
「ヴォルデモート卿きょうは、この島にたどり着くほどの者を、殺したくはないじゃろう」
ハリーは信じられない思いだった。またしても、誰だれに対しても善ぜん良りょうさを認めようとする、ダンブルドアの異常な信念しんねんなのだろうか?