星空の下に戻もどると、ハリーはダンブルドアをいちばん近くの大岩の上に引っぱり上げ、抱きかかえて立たせた。ぐしょ濡ぬれで震ふるえながら、ダンブルドアの重みを支え、ハリーはこんなに集中したことはないと思われるほど真剣しんけんに、目的地を念ねんじた。ホグズミードだ。目を閉じ、ダンブルドアの腕をしっかり握り、ハリーは押しつぶされるような恐ろしい感覚の中に踏ふみ入った。
目を開ける前から、ハリーは成功したと思った。潮しおの香かも潮風も消えていた。ダンブルドアと二人、ハリーはホグズミードのハイストリート通りのまん中に、水を滴したたらせ、震えながら立っていた。一いっ瞬しゅん、店の周辺から、またしても亡者もうじゃたちが忍び寄ってくるような恐ろしい幻覚げんかくを見たが、瞬まばたきしてみると、何も蠢うごめいてはいなかった。すべてが静まり返り、わずかな街灯がいとうと何軒けんかの二階の窓の明かりのほかは、まっ暗だった。
「やりました、先生!」
ハリーは囁ささやくのがやっとだった。急に鳩尾みずおちに刺さし込むような痛みを覚えた。
「やりました! 分ぶん霊れい箱ばこを手に入れました!」
ダンブルドアがぐらりとハリーに倒れ掛かかった。一瞬、自分の未み熟じゅくな「姿すがた現あらわし」のせいで、ダンブルドアがバランスを崩くずしたのではないかと思ったが、次の瞬しゅん間かん、遠い街灯の明かりに照らされたダンブルドアの顔が、いっそう蒼あお白じろく衰すい弱じゃくしているのが見えた。
「先生、大丈夫ですか?」
「最高とは言えんのう」
ダンブルドアの声は弱々しかったが、唇くちびるの端はしがひくひく動いた。
「あの薬は……健康ドリンクではなかったのう……」
そして、ダンブルドアは地面にくずおれた。ハリーは戦慄せんりつした。
「先生――大丈夫です。きっとよくなります。心配せずに――」
ハリーは助けを求めようと必死の思いで周まわりを見回したが、人影はない。ハリーは、ダンブルドアをなんとかして早く医い務む室しつに連れていかなければならない、ということしか思いつかなかった。