学校の上空に、たしかにあの印があった。蛇へびの舌を出した緑色の髑髏どくろが、ギラギラ輝かがやいている。死し喰くい人びとが侵しん入にゅうしたあとに残す印だ……誰かを殺したときに残す印だ……。
「いつ現れたのじゃ?」
ダンブルドアが聞いた。立ち上がろうとするダンブルドアの手が、ハリーの肩に痛いほど食い込んだ。
「数分前に違いないわ。猫を外に出したときにはありませんでしたもの。でも二階に上がったときに――」
「すぐに城に戻もどらねばならぬ」
ダンブルドアが言った。少しよろめきはしたが、しっかり事態じたいを掌しょう握あくしていた。
「ロスメルタ、輸ゆ送そう手しゅ段だんが必要じゃ――箒が――」
「バーのカウンターの裏うらに、二、三本ありますわ」ロスメルタは怯おびえていた。
「行って取ってきましょうか?」
「いや、ハリーに任まかせられる」
ハリーは、すぐさま杖つえを上げた。
「アクシオ! ロスメルタの箒よ、来い!」
たちまち大きな音がして、パブの入口の扉とびらがパッと開き、箒が二本、勢いよく表に飛び出した。箒ほうきは抜きつ抜かれつハリーの脇わきまで飛んできて、微かすかに振動しんどうしながら、腰こしの高さでぴたりと停とまった。
「ロスメルタ、魔法省への連れん絡らくを頼んだぞ」
ダンブルドアは自分に近いほうの箒に跨またがりながら言った。
「ホグワーツの内部の者は、まだ異変いへんに気づいておらぬやもしれぬ……ハリー、『透とう明めいマント』を着るのじゃ」
ハリーはポケットからマントを取り出してかぶってから、箒に跨った。ハリーとダンブルドアが地面を蹴けって空に舞い上がったときには、マダム・ロスメルタは、すでに高い踵かかとの室内履ばきでよろけながらパブに向かって小走りに駆かけ出していた。城を目指して速度を上げながら、ハリーは、ダンブルドアが落ちるようなことがあればすぐさま支えられるようにと、ちらちら横を見た。しかし、「闇やみの印しるし」はダンブルドアにとって、刺し激げき剤ざいのような効果をもたらしたらしい。印を見み据すえて、長い銀色の髪かみと鬚ひげとを夜空になびかせながら、ダンブルドアは箒に低く屈かがみ込んでいた。ハリーも前方の髑髏どくろを見み据すえた。恐きょう怖ふが泡立あわだつ毒のように肺を締しめつけ、ほかのいっさいの苦痛を念頭ねんとうから追い出してしまった……。