扉が勢いよく開き、誰かが飛び出して叫さけんだ。
「エクスペリアームス! 武ぶ器きよ去れ!」
ハリーはたちまち体が硬こう直ちょくして動かなくなり、まるで不安定な銅像のように倒れて、塔とうの防ぼう壁へきに支えられるのを感じた。動くことも口をきくこともできない。どうしてこんなことになったのか、ハリーにはわからなかった――エクスペリアームスは「凍とう結けつ呪じゅ文もん」とは違うのに――。
そのとき、闇やみの印しるしの明かりで、ダンブルドアの杖が弧こを描いて防壁の端はしを越えて飛んでいくのが見え、事態じたいが呑のみ込めた……ダンブルドアが無言でハリーを動けなくしたのだ。その術をかける一いっ瞬しゅんのせいで、ダンブルドアは自分を護まもるチャンスを失ったのだ。
血の気の失うせた顔で、防壁を背にして立ちながらも、ダンブルドアには恐きょう怖ふや苦悩くのうの影すらない。自分の武器を奪うばった相手に目をやり、ただ一言こう言った。
「こんばんは、ドラコ」
マルフォイが進み出た。すばやく辺あたりに目を配り、ダンブルドアと二人きりかどうかを確かめた。二本目の箒ほうきに目が走った。
「ほかに誰かいるのか?」
「わしのほうこそ聞きたい。きみ一人の行動かね?」
闇の印の緑の光で、マルフォイの薄うすい色の目がダンブルドアに視線しせんを戻もどすのが見えた。
「違う」マルフォイが言った。「援軍えんぐんがある。今夜この学校には『死し喰くい人びと』がいるんだ」
「ほう、ほう」
ダンブルドアはまるで、マルフォイががんばって仕上げた宿題を見ているような言い方をした。
「なかなかのものじゃ。きみが連中を導みちびき入れる方法を見つけたのかね?」
「そうだ」マルフォイは息を切らしていた。
「校長の目と鼻はなの先なのに、気がつかなかったろう!」
「よい思いつきじゃ」ダンブルドアが言った。
「しかし……失礼ながら……その連中はいまどこにいるのかね? きみの援軍とやらは、いないようだが」
「そっちの護衛ごえいに出くわしたんだ。下で戦ってる。追おっつけ来るだろう……僕は先に来たんだ。僕には――僕にはやるべきことがある」
「おう、それなら、疾とくそれに取りかからねばなるまいのう」ダンブルドアが優やさしく言った。