「きみの難むずかしい立場はよくわかる」ダンブルドアが言った。
「わしがいままできみに対たい抗こうしなかった理由が、それ以外にあると思うかね? わしがきみを疑っていると、ヴォルデモート卿きょうに気づかれてしまえば、きみは殺されてしまうと、わしにはわかっておったのじゃ」
マルフォイはその名を聞いただけで怯ひるんだ。
「きみに与えられた任務にんむのことは知っておったが、それについてきみと話をすることができなんだ。あの者がきみに対して『開かい心しん術じゅつ』を使うかもしれぬからのう」
ダンブルドアが語り続けた。
「しかしいまやっと、お互いに率そっ直ちょくな話ができる……何も被害ひがいはなかった。きみは誰だれをも傷つけてはいない。もっとも予期せぬ犠ぎ牲せい者しゃたちが死ななかったのは、きみにとって非常に幸運なことではあったのじゃが……ドラコ、わしが助けてしんぜよう」
「できっこない」マルフォイの杖つえを持った手が激はげしく震ふるえていた。
「誰にもできない。あの人が僕にやれと命じた。やらなければ殺される。僕にはほかに道がない」
「ドラコ、我々の側がわに来るのじゃ。我々は、きみの想像もつかぬほど完璧かんぺきに、きみを匿かくまうことができるのじゃ。その上、わしが今夜『騎き士し団だん』の者を母上のもとに遣つかわして、母上をも匿うことができる。父上のほうは、いまのところアズカバンにいて安全じゃ……時がくれば、父上も我々が保ほ護ごしよう……正しいほうにつくのじゃ、ドラコ……きみは殺人者ではない……」
マルフォイはダンブルドアをじっと見つめた。
「だけど、僕はここまでやり遂とげたじゃないか」ドラコがゆっくりと言った。「僕が途中で死ぬだろうと、みんながそう思っていた。だけど、僕はここにいる……そして校長は僕の手中にある……杖を持っているのは僕だ……あんたは僕のお情けで……」
「いや、ドラコ」
ダンブルドアが静かに言った。
「いま大切なのは、きみの情けではなく、わしの情けなのじゃ」
マルフォイは無言だった。口を開け、杖を持つ手がまだ震えていた。ハリーには、心なしかマルフォイの杖がわずかに下がったように見えた――。
しかし、突然、階段を踏ふみ鳴らして駆かけ上がってくる音がして、次の瞬しゅん間かん、マルフォイは、屋上に躍おどり出た黒いローブの四人に押しのけられた。身動きできず、瞬まばたきできない目を見開いて、恐きょう怖ふに駆かられながら、ハリーは四人の侵しん入にゅう者しゃを見つめた。階下の戦いは、死し喰くい人びとが勝利したらしい。