ハリーは自分も空を飛んでいるような気がした。本当のことじゃない……本当のことであるはずがない……。
「ここから出るのだ。早く」スネイプが言った。
スネイプはマルフォイの襟首えりくびをつかみ、まっ先に扉とびらから押し出した。グレイバックと、ずんぐりした兄きょう妹だいがそのあとに続いた。二人とも興こう奮ふんに息を弾はずませていた。三人がいなくなったとき、ハリーはもう体が動かせることに気づいた。麻ま痺ひしたまま防壁ぼうへきに寄り掛かかっているのは、魔法のせいではなく、恐きょう怖ふとショックのせいだった。残忍ざんにんな顔の死し喰くい人びとが、最後に塔とうの屋上から扉の向こうに消えようとした瞬しゅん間かん、ハリーは「透とう明めいマント」をかなぐり捨てた。
「ペトリフィカス トタルス! 石になれ!」
四人目の死喰い人は蝋ろう人にん形ぎょうのように硬こう直ちょくし、背中を硬かたいもので打たれたかのように、ばったりと倒れた。その体が倒れるか倒れないうちに、ハリーはもう、その死喰い人を乗り越え、暗い階段を駆かけ下りていた。
恐怖がハリーの心臓を引き裂さいた……ダンブルドアのところへ行かなければならないし、スネイプを捕とらえなければならない……二つのことがなぜか関連かんれんしていた……二人を一いっ緒しょにすれば、起こってしまった出来事を覆くつがえせるかもしれない……ダンブルドアが死ぬはずはない……。
ハリーは螺ら旋せん階かい段だんの最後の十段を一跳ひととびに飛び降おり、杖つえを構かまえてその場に立ち止まった。薄うす暗い廊下ろうかはもうもうと埃ほこりが立っていた。天井の半分は落ち、ハリーの目の前で戦いが繰くり広げられていた。しかし、誰だれが誰と戦っているのかを見極みきわめようとしたそのとき、あの憎むべき声が叫さけんだ。
「終わった。行くぞ!」
スネイプの姿が廊下の向こう端はしから、角を曲がって消えようとしていた。スネイプとマルフォイは、無傷のままで戦いからの活路かつろを見出したらしい。ハリーがそのあとを追いかけて突とっ進しんしたとき、誰かが乱闘らんとうから離れてハリーに飛びかかった。狼おおかみ男おとこのグレイバックだった。ハリーが杖を掲かかげる間もなく、グレイバックがのしかかってきた。ハリーは仰向あおむけに倒れた。汚らしいもつれた髪かみがハリーの顔にかかり、汗と血の悪あく臭しゅうが鼻はなと喉のどを詰まらせ、血に飢うえた熱い息がハリーの喉元のどもとに――。
「ペトリフィカス トタルス! 石になれ!」