ハリーは、グレイバックが自分の体の上に倒れ込むのを感じた。満身の力でハリーは狼男を押しのけ、床に転がした。そのとき緑の閃光せんこうがハリーめがけて飛んできた。ハリーはそれをかわして、乱闘の中に頭から突っ込んでいった。床に転がっていた何かグニャリとした滑すべりやすいものに、ハリーは足を取られて倒れた。二つの死体が血の海にうつ伏ぶせになっている。しかし、調べている暇ひまはない。こんどは目の前で炎のように舞っている赤毛が目に入った。ジニーが、ずんぐりした死喰い人のアミカスとの戦いに巻き込まれている。アミカスが次々と投げつける呪詛じゅそを、ジニーがかわしていた。アミカスはグッグッと笑いながら、スポーツでも楽しむようにからかっていた。
「クルーシオ! 苦しめ!――いつまでも踊おどっちゃいられないよ、お嬢じょうちゃん――」
「インペディメンタ! 妨害ぼうがいせよ!」ハリーが叫さけんだ。
呪のろいはアミカスの胸に当たった。キーッと豚ぶたのような悲鳴を上げて吹っ飛んだアミカスは、反対側の壁かべに激突げきとつして壁伝いにズルズルとずり落ち、ロン、マクゴナガル先生、ルーピンの背後に姿を消した。三人も、それぞれ死し喰くい人びととの一いっ騎き打うちの最中だ。その向こうで、トンクスが巨大なブロンドの魔法使いと戦っているのが見えた。その男の、所かまわず飛ばす呪じゅ文もんが、周まわりの壁に撥はね返って石を砕くだき、近くの窓を粉々こなごなにしている――。
「ハリー、どこから出てきたの?」
ジニーが叫んだが、それに答えている暇ひまはなかった。ハリーは頭を低くし、先を急いで走った。頭上で何かが炸裂さくれつするのを、ハリーは危あやうくかわしたが、壊こわれた壁があたり一面に降ふり注いだ。スネイプを逃がすわけにはいかない。スネイプに追いつかなければならない――。
「これでもか!」マクゴナガル先生が叫んだ。
ハリーがちらと目をやると、死喰い人のアレクトが両腕で頭を覆おおいながら、廊下ろうかを走り去るところだった。兄の死喰い人がそのすぐあとを走っている。ハリーは二人を追いかけようとした。ところが、何かにつまずき、次の瞬しゅん間かん、ハリーは誰だれかの足の上に倒れていた。見回すと、ネビルの丸顔が、蒼そう白はくになって床に張りついているのが目に入った。
「ネビル、大だい丈じょう――?」
「だいじょぶ」ネビルは、腹を押さえながら呟つぶやくように言った。
「ハリー……スネイプとマルフォイが……走っていった……」
「わかってる。任まかせておけ!」
ハリーは、倒れた姿勢のままで、いちばん派手に暴れまわっている巨大なブロンドの死喰い人めがけて呪詛じゅそをかけた。呪のろいが顔に命中して、男は苦痛の吠ほえ声を上げ、よろめきながらくるりと向きを変えて、兄妹のあとからドタバタと逃げ出した。