背後の人垣ひとがきがざわめいた。長い時間が経たったような気がしたが、ふと、ハリーは自分が何か固いものの上にひざまずいていることに気づいて、見下ろした。
もう何時間も前に、ダンブルドアと二人でやっと手に入れたロケットが、ダンブルドアのポケットから落ちていた。おそらく地面に落ちた衝撃で、ロケットの蓋ふたが開あいていた。いまのハリーには、もうこれ以上何の衝撃も、恐きょう怖ふや悲しみも感じることはできなかったが、ロケットを拾い上げたとき、何かがおかしいと気づいた……。
ハリーは、手の中でロケットを裏返うらがえした。「憂うれいの篩ふるい」で見たロケットほど大きくないし、何の刻印こくいんもない。スリザリンの印とされるS字エスじの飾かざり文も字じもどこにもない。しかも、中には何もなく、肖しょう像ぞう画がが入っているはずの場所に、羊よう皮ひ紙しの切きれ端はしが折りたたんで押し込んであるだけだった。
自分が何をしているか考えもせず、ハリーは無意識に羊よう皮ひ紙しを取り出して開き、背後に灯ともっているたくさんの杖明つえあかりに照らしてそれを読んだ。
闇やみの帝てい王おうへ
あなたがこれを読むころには、私はとうに死んでいるでしょう。
しかし、私があなたの秘密を発見したことを知ってほしいのです。
本当の分ぶん霊れい箱ばこは私が盗みました。できるだけ早く破は壊かいするつもりです。
死に直面する私が望むのは、あなたが手ごわい相手に見まみえたそのときに、
もう一度死ぬべき存在となることです。
R・A・B
この書付かきつけが何を意味するのか、ハリーにはわからなかったし、どうでもよかった。ただ一つのことだけが重要だった。これは分霊箱ではなかった。ダンブルドアはむだにあの恐ろしい毒を飲み、自みずからを弱めたのだ。ハリーは羊皮紙を手の中で握りつぶした。ハリーの後ろでファングがワオーンと遠吠とおぼえし、ハリーの目は、涙なみだで焼けるように熱くなった。