「まさか!」
ハリーが否定してくれることを望むかのように、ルーピンの目がジニーからハリーへと激はげしく移動した。しかしハリーが否定しないことがわかると、ビルのベッド脇わきの椅い子すにがっくりと座り込み、両手で顔を覆おおった。ハリーはルーピンが取り乱すのをはじめて見た。見てはいけない個人の傷を見てしまったような気がして、ハリーはルーピンから目を逸そらし、ロンを見た。黙だまってロンと目を見交わすことで、ハリーは、ジニーの言葉のとおりだと伝えた。
「どんなふうにお亡くなりになったの?」トンクスが小声で聞いた。
「どうしてそうなったの?」
「スネイプが殺した」ハリーが言った。
「僕はその場にいた。僕は見たんだ。僕たちは、『闇やみの印しるし』が上がっていたので、天てん文もん台だいの塔とうに戻もどった……ダンブルドアは病気で、弱っていた。でも、階段を駆かけ上がってくる足音を聞いたとき、ダンブルドアはそれが罠わなだとわかったんだと思う。ダンブルドアは僕を金縛かなしばりにしたんだ。僕は何にもできなかった。『透とう明めいマント』をかぶっていたんだ――そしたらマルフォイが扉とびらから現れて、ダンブルドアを『武ぶ装そう解かい除じょ』した――」
ハーマイオニーが両手で口を覆おおった。ロンは呻うめき、ルーナの唇くちびるが震ふるえた。
「――次々に『死し喰くい人びと』がやって来た――そして、スネイプが――それで、スネイプがやった。『アバダ ケダブラ』を」
ハリーはそれ以上続けられなかった。
マダム・ポンフリーがワッと泣き出した。誰だれも校医のポンフリーに気を取られなかったが、ジニーだけがそっと言った。
「シーッ! 黙だまって聞いて!」
マダム・ポンフリーは嗚咽おえつを呑のみ込み、指を口に押し当ててこらえながら、目を見開いた。暗くら闇やみのどこかで、不死鳥が鳴いていた。ハリーがはじめて聞く、恐ろしいまでに美しい、打ちひしがれた嘆なげきの歌だった。そしてハリーは、以前に不死鳥の歌を聞いて感じたと同じように、その調べを自分の外にではなく、内側に感じた。ハリー自身の嘆きが不思議にも歌になり、校庭を横切り、城の窓を貫いて響ひびき渡っていた。
全員がその場に佇たたずんで、歌に聞き入った。どのくらいの時間が経ったのだろう。ハリーにはわからなかった。自分たちの追悼ついとうの心を映うつした歌を聞くことで、痛みが少し和やわらいでいくようなのはなぜなのかもわからなかった。しかし、病びょう棟とうの扉が再び開いたときには、ずいぶん長い時間が経ったような気がした。マクゴナガル先生が入ってきた。みんなと同じように、マクゴナガル先生にも戦いの痕あとが残り、顔がすりむけ、ローブは破れていた。
「モリーとアーサーがここへ来ます」
その声で音楽の魔力が破られた。全員が夢から醒さめたように、再びビルを振り返ったり、目をこすったり、首を振ったりした。
「ハリー、何が起こったのですか? ハグリッドが言うには、あなたが、ちょうど――ちょうどそのことが起こったとき、ダンブルドア校長と一いっ緒しょだったということですが。ハグリッドの話では、スネイプ先生が何かに関わって――」
「スネイプが、ダンブルドアを殺しました」ハリーが言った。