熱い太陽の下に座りながら、ハリーははっきりと気づいた。ハリーを愛した人々が、一人、また一人とハリーの前で敵に立ちはだかり、あくまでもハリーを護まもろうとしたのだ。父さん、母さん、名な付づけ親おや、そしてついにダンブルドアまでも。しかし、いまやそれは終わった。自分とヴォルデモートの間に、もう他の誰だれをも立たせるわけにはいかない。両親の腕かいなに護られ、自分を傷つけるものは何もないなどという幻想げんそうを、ハリーは未来永劫えいごう捨て去らなければならない。一歳のときにすでに捨てるべきだった。もはやハリーはこの悪夢あくむから醒さめることはないし、本当は安全なのだ、すべては思い込みにすぎないのだと闇やみの中で囁ささやく、慰なぐさめの声もない。最後の、そしてもっとも偉大いだいな庇ひ護ご者しゃが死んでしまった。そしてハリーは、これまでより、もっとひとりぼっちだった。
喪服もふくの小柄こがらな魔法使いが、やっと話すのをやめて席に戻もどった。ほかの誰かが立ち上がるのを、ハリーは待った。おそらく魔法大臣の弔辞ちょうじなどが続くのだろうと思った。しかし、誰も動かなかった。
やがて何人かが悲鳴を上げた。ダンブルドアの亡なき骸がらとそれを載のせた台の周まわりに、眩まばゆい白い炎が燃え上がった。炎はだんだん高く上がり、亡骸が朧おぼろにしか見えなくなった。白い煙が渦うずを巻いて立ち昇り、不思議な形を描いた。ほんの一いっ瞬しゅん、青空に楽しげに舞う不死鳥の姿を見たような気がして、ハリーは心臓が止まる思いがした。しかし次の瞬しゅん間かん、炎は消え、そのあとには、ダンブルドアの亡骸と、亡骸を載せた台とを葬ほうむった、白い大だい理り石せきの墓はかが残されていた。
天から雨のように矢が降ふり注ぎ、再び衝しょう撃げきの悲鳴が上がった。しかし矢は参さん列れつ者しゃから遥はるかに離れたところに落ちた。それがケンタウルスの死者への表ひょう敬けいの礼なのだと、ハリーにはわかった。ケンタウルスは参列者に尻尾しっぽを向け、涼すずしい木々の中へと戻っていった。同じく水中人も、緑色の湖の中へとゆっくり沈んでいき、姿が見えなくなった。
ハリーは、ジニー、ロン、ハーマイオニーを見た。ロンは太陽が眩まぶしいかのように顔をくしゃくしゃにしかめていた。ハーマイオニーの顔は涙なみだで光っていたが、ジニーはもう泣いてはいなかった。ハリーの視線しせんを、ジニーは燃えるような強い眼差しで受け止めた。ハリーが出場しなかったクィディッチ優勝戦で勝ったあと、ハリーに抱きついたときにジニーが見せた、あの眼差しだった。その瞬間ハリーは、二人が完全に理解し合ったことを知った。ハリーがいま何をしようとしているかを告げても、ジニーは「気をつけて」とか「そんなことをしないで」とは言わず、ハリーの決意を受け入れるだろう。なぜなら、ジニーがハリーに期待しているのは、それ以外の何物でもないからだ。ダンブルドアが亡くなって以来ずっと、言わなければならないとわかっていたことをついに言おうと、ハリーは自分を奮ふるい立たせた。