長い沈ちん黙もくが続いた。参さん列れつ者しゃはもうほとんどいなくなって、取り残された何人かが、ハグリッドに寄り添そって抱きかかえている小山のようなグロウプから、できるだけ遠ざかっていた。ハグリッドの吼ほえるような哀切あいせつの声はまだやまず、湖面に響ひびき渡っていた。
「僕たち、行くよ、ハリー」ロンが言った。
「え?」
「君のおじさんとおばさんの家うちに」ロンが言った。
「それから君と一いっ緒しょに行く。どこにでも行く」
「だめだ――」
ハリーが即座そくざに言った。そんなことは期待していなかった。この危険極きわまりない旅に、自分はひとりで出かけるのだということを、二人に理解してもらいたかったのだ。
「あなたは、前に一度こう言ったわ」
ハーマイオニーが静かに言った。
「私たちがそうしたいなら、引き返す時間はあるって。その時間はもう十分にあったわ、違う?」
「何があろうと、僕たちは君と一緒だ」ロンが言った。
「だけど、おい、何をするより前に、僕のパパとママのところに戻もどってこないといけないぜ。ゴドリックの谷より前に」
「どうして?」
「ビルとフラーの結婚式だ。忘れたのか?」
ハリーは驚いてロンの顔を見た。結婚式のようなあたりまえのことがまだ存在しているなんて、信じられなかった。しかしすばらしいことだった。
「ああ、そりゃあ、僕たち、見逃みのがせないな」しばらくしてハリーが言った。
ハリーは、我知らず偽にせの分ぶん霊れい箱ばこを握りしめていた。いろいろなことがあるけれど、目の前に暗く曲きょく折せつした道が伸のびてはいるけれど、一ヵ月後か、一年後か、十年後か、やがてはヴォルデモートとの最後の対決の日が来るとわかってはいるけれど、ロンやハーマイオニーと一緒に過ごせる最後の平和な輝かがやかしい一日がまだ残されていると思うと、ハリーは心が浮き立つのを感じた。