ヴォルデモートは再びゆっくりと回転する姿を見上げながら、言葉を続けた。
「あの小僧は俺様が直々じきじきに始末する。ハリー・ポッターに関しては、これまであまりにも失態しったいが多かった。俺様自身の手て抜ぬかりもある。ポッターが生きているのは、あやつの勝利というより俺様の思わぬ誤算ごさんによるものだ」
テーブルを囲む全員が、ヴォルデモートを不安な表情で見つめていた。どの顔も、自分がハリー・ポッター生存の責せめを負わされるのではないかと恐れていた。しかし、ヴォルデモートは、誰に向かって話しているわけでもなかった。頭上に浮かぶ意識のない姿に眼めを向けたまま、むしろ自分自身に話していた。
「俺様は侮あなどっていた。その結果、綿密めんみつな計画には起こりえぬことだが、幸運と偶然ぐうぜんというつまらぬやつに阻はばまれてしまったのだ。しかし、いまは違う。以前には理解していなかったことが、いまはわかる。ポッターの息いきの根ねを止めるのは、俺様でなければならぬ。そうしてやる」
その言葉に呼応こおうするかのように、突然、苦痛に満ちた恐ろしいうめき声が、長々と聞こえてきた。テーブルを囲む者の多くが、ぎくりとして下を見た。うめき声が足下あしもとから上がってくるかのようだったからだ。
「ワームテールよ」
ヴォルデモートは、想おもいに耽ふける静かな調子をまったく変えず、宙ちゅうに浮かぶ姿から眼めを離はなすこともなく呼びかけた。
「囚人しゅうじんをおとなしくさせておけ、と言わなかったか」
「はい、わ――わが君きみ」
テーブルの中ほどで、小さな男が息を呑のんだ。あまりに小さくなって座っていたので、一見いっけん、その席には誰も座っていないかのようだった。ワームテールはあわてて立ち上がり、大急ぎで部屋を出ていった。あとには得体えたいのしれない銀色の残像ざんぞうが残っただけだった。
「話の続きだが――」
ヴォルデモートは、再び部下の面々めんめんの緊張きんちょうした顔に眼を向けた。
「俺様おれさまは、以前よりよくわかっている。たとえば、ポッターを亡なき者ものにするには、おまえたちの誰かから、杖つえを借りる必要がある」
全員が衝撃しょうげきを受けた表情になった。腕を一本差し出せと宣言せんげんされたかのようだった。
「進んで差し出す者は」ヴォルデモートが聞いた。
「さてと……ルシウス、おまえはもう杖を持っている必要がなかろう」
ルシウス・マルフォイが顔を上げた。暖炉だんろの灯あかりに照らし出された顔は、皮ひ膚ふが黄ばんで蝋ろうのように血の気がなく、両眼りょうがんは落おち窪くぼんで隈くまができていた。
「わが君」聞き返す声がしわがれていた。
「ルシウス、おまえの杖だ。俺様はおまえの杖を、御ご所しょ望もうなのだ」
「私は……」
マルフォイは横目で妻を見た。夫と同じく青白い顔をした妻は、長いブロンドの髪かみを背中に流し、まっすぐ前を見つめたままだったが、テーブルの下では一瞬いっしゅん、ほっそりした指で夫の手首を包んだ。妻の手を感じたマルフォイは、ローブに手を入れて杖を引き出し、杖はつぎつぎと手送りでヴォルデモートに渡された。ヴォルデモートはそれを目の前にかざし、赤い眼が丹念たんねんに杖を調しらべた。