ハリーは読み終わってもなお、追悼ついとう文ぶんに添そえられた写真を見つめ続けていた。ダンブルドアは、いつものあの優しい微笑ほほえみを浮かべていた。しかし、新聞の写真にすぎないのに、半はん月げつ形がたメガネの上から覗のぞいているその目は、ハリーの気持をレントゲンのように透視とうししているようだった。ハリーのいまの悲しみには、恥じ入る気持が混じっていた。
ハリーはダンブルドアをよく知っているつもりだった。しかしこの追悼文を最初に読んだときから、実はほとんど何も知らなかったことに気づかされていた。ダンブルドアの子どものころや青年時代など、ハリーは一度も想像したことがなかった。最初からハリーの知っている姿で出現した人のような気がしていた。人じん格かく者しゃで、銀色の髪かみをした高齢こうれいのダンブルドアだ。十代のダンブルドアなんてちぐはぐだ。愚おろかなハーマイオニーとか、人懐ひとなつっこい「尻しっ尾ぽ爆ばく発はつスクリュート」を想像するのと同じくらいおかしい。
ハリーは、ダンブルドアの過去を聞こうとしたことさえなかった。聞くのは何だかおかしいし、むしろ無ぶ遠えん慮りょだと思ったのだ。しかし、ダンブルドアが臨のぞんだグリンデルバルドとのあの伝でん説せつの決闘けっとうなら、誰でも知っていることだった。それなのに、ハリーは、決闘の様子をダンブルドアに聞こうともしなかったし、そのほかの有名な功績こうせきについても、いっさい聞こうと思わなかった。そうなのだ。二人はいつもハリーのことを話したのだ。ハリーの過去、ハリーの未来、ハリーの計画……自分の未来がどんなに危険極きわまりなく不確実なものであったにせよ、いまにして思えば、ダンブルドアについてもっといろいろ聞いておかなかったのは、取り返しのつかない機会を逃したことになる。もっとも、ハリーは、たった一度だけダンブルドア校長に個人的な質問をしたことがあったが、そのときだけは、ダンブルドアが正直に答えなかったのではないかと、ハリーは疑っていた。
「先生なら、この鏡で何が見えるんですか」
「わしかね 厚手あつでのウールの靴下くつしたを一足、手に持っておるのが見える」
しばらく考えに耽ふけったあと、ハリーは「日にっ刊かん予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん」の追悼文を破やぶり取り、きちんとたたんで「実じっ践せん的てき防ぼう衛えい術じゅつと闇やみの魔術まじゅつに対するその使用しよう法ほう」第一巻の中に挟はさみ込んだ。それから、破った残りの新聞をゴミの山に放ほうり投げ、部屋を眺ながめた。ずいぶんすっきりした。まだ片付いていないのは、ベッドに置いたままにしてある今朝の「日刊予言者新聞」と、その上に載のせた鏡のかけらだけだ。
ハリーはベッドまで歩いて、鏡のかけらを新聞からそっと滑すべらせて脇わきに落とし、紙面を広げた。今朝早く、配達ふくろうから丸まったまま受け取り、大見出しだけをちらりと見て、ヴォルデモートの記事が何もないことを確かめてから、そのまま投げ出しておいた新聞だ。魔ま法ほう省しょうが「予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん」に圧力をかけて、ヴォルデモートに関する記事を隠蔽いんぺいしているに違いないと思い込んでいたので、ハリーはいまあらためて、読みすごしていた記事に気がついた。