「ええ、そりゃ、あたくしたち二人は親しい絆きずなで結ばれるようになったざんす」スキーターが言った。「かわいそうに、ポッターには真の友と呼べる人間がほとんどいないざんしてね。しかも、あたくしたちが出会ったのは、あの子の人生でももっとも厳きびしい試練しれんのとき――三さん校こう対抗たいこう試合じあいのときだったざんす。たぶんあたくしは、ハリー・ポッターの実像じつぞうを知る、数少ない生き証人しょうにんの一人ざんしょうね」
話の流れが、いまだに流る布ふしているダンブルドアの最さい期ごに関するさまざまな噂うわさへと、うまく結びついた。ダンブルドアが死んだときポッターがその場にいたという噂を、スキーターは信じているだろうか
「まあ、しゃべりすぎないようにしたいざんすけどね――すべては本の中にあるざんす――しかし、ダンブルドアが墜落ついらくしたか、飛び降おりたか、押されて落ちたかした直後に、ホグワーツ城内の目撃もくげき者しゃが、ポッターが現場から走り去るところを見ているざんす。ポッターはその後、セブルス・スネイプに不利な証言しょうげんをしているざんすが、ポッターがこの人物に恨うらみを抱いていることは有名ざんすよ。果たして言葉どおり受け取れるかどうか それは魔法界全体が決めること――あたくしの本を読んでからざんすけどね」
思わせぶりな一言を受けて、筆者ひっしゃは暇いとまを告げた。スキーターの羽は根ねペンによる本書は、たちどころにベストセラーとなること間違いなしだ。一方、ダンブルドアを崇拝すうはいする多くの人々にとっては、その英雄えいゆう像ぞうから何が飛び出すやら、戦せん々せん恐きょう々きょうの日々かもしれない。
記事を読み終わっても、ハリーは呆然ぼうぜんとその紙面をにらみつけたままだった。嫌悪感と怒りが反へ吐どのように込み上げてきた。新聞を丸め、力まかせに壁かべに投げつけた。ゴミ箱はすでにあふれ、新聞はゴミ箱の周りに散らばっているゴミの山に加わった。
ハリーは部屋の中を無意識に大股またで歩き回った。空からっぽの引き出しを開けたり、本を取り上げてはまた元の山に戻したり、ほとんど何をしているかの自覚もなかった。リータの記事の言葉が、ばらばらに頭の中で響ひびいていた。「ポッターダンブルドアの関係のすべてには、一章まるまる割さいた……不健全で、むしろ忌まわしい関係だと言われてた……ダンブルドア自身、若いころは闇やみの魔術まじゅつにちょいと手を出していた……あたくしには、大方おおかたのジャーナリストが杖つえを差し出してでも手に入れたいと思うような情じょう報ほう源げんが一つある……」
「嘘うそだ」ハリーは大声で叫さけんだ。
窓の向こうで、芝刈しばかり機きの手を休めていた隣となりの住人が、不安げに見上げるのが見えた。
ハリーはベッドにドスンと座った。割れた鏡のかけらが、踊おどり上がって遠くに飛んだ。ハリーはそれを拾い、指で裏返うらがえしながら考えた。ダンブルドアのことを、そしてダンブルドアの名誉めいよを傷つけているリータ・スキーターの嘘うそ八はっ百ぴゃくを……。
明るい、鮮あざやかなブルーがきらりと走った。はっと身を硬かたくしたとたん、けがをした指が再びギザギザした鏡の縁ふちで滑すべった。気のせいだ。気のせいに違いない。ハリーは振ふり返った。しかし、背後の壁かべはペチュニアおばさん好みの、気持の悪い桃色ももいろだ。鏡に映うつるようなブルーの物はどこにもない。ハリーはもう一度鏡のかけらを覗のぞき込んだが、明るい緑色の自分の目が見つめ返しているだけだった。
気のせいだ。それしか説明のしようがない。亡くなった校長のことを考えていたから、見えたような気がしただけだ。アルバス・ダンブルドアの明るいブルーの目が、ハリーを見み透すかすように見つめることはもう二度とない。それだけは確かだ。