「おまえが言うには」バーノン・ダーズリーはまた居間の往復を始めた。「わしらが――ペチュニアとダドリーとわしだが――狙ねらわれとるとか。相手は――その――」
「『僕たちの仲間』、そうだよ」ハリーが言った。
「うんにゃ、わしは信じないぞ」バーノンおじさんはまたハリーの前で立ち止まり、繰くり返した。「昨夜はそのことを考えて、半分しか寝とらん。これは家を乗っ取る罠わなだと思う」
「家」ハリーが繰り返した。「どの家」
「この家だ」おじの声は上ずり、こめかみの青筋あおすじがピクピクしはじめた。「わしらの家だ このあたりは住宅の値段がうなぎ上りだ おまえは邪魔じゃまなわしらを追い出して、それからちょいとチチンプイプイをやらかして、あっという間に権けん利り証しょうはおまえの名前になって、そして――」
「気は確かなの」ハリーが問い質ただした。「この家を乗っ取る罠 おじさん、顔ばかりか頭までおかしいのかな」
「なんて口のきき方を――」
ペチュニアおばさんがキーキー声を上げたが、またしてもバーノンが手を振ふって制止せいしした。顔をけなされることなど、自分が見破みやぶった危険に比べれば何でもないという様子だ。
「忘れちゃいないとは思うけど――」ハリーが言った。「僕にはもう家がある。名付け親が遺のこしてくれた家だよ。なのに、どうして僕がこの家をほしがるってわけ 楽しい思い出がいっぱいだから」
おじはぐっと詰まった。ハリーは、この一言がおじにはかなり効きいたと思った。
「おまえの言い分は」バーノンおじさんはまた歩きはじめた。「その何とか卿きょうが――」
「ヴォルデモート」ハリーはいらいらしてきた。「もう百回も話し合ったはずだ。僕の言い分なんかじゃない。事実だ。ダンブルドアが去年おじさんにそう言ったし、キングズリーもウィーズリーさんも――」
バーノン・ダーズリーは怒ったように肩をそびやかした。ハリーはおじの考えていることが想像できた。夏休みに入って間もなく、正しょう真しん正しょう銘めいの魔法使いが二人、前触まえぶれもなしにこの家にやってきたという記憶きおくを振り払おうとしているのだ。キングズリー・シャックルボルトとアーサー・ウィーズリーの二人が戸口に現れたこの事件は、ダーズリー一家にとって不快極きわまりない衝撃しょうげきだった。ハリーにもその気持はわかる。ウィーズリーおじさんは、かつてこの居間の半分を吹っ飛ばしたことがあったのだから、再度の訪問ほうもんにバーノン・ダーズリーがうれしい顔をするはずがない。
「――キングズリーもウィーズリーさんも、全部説明したはずだ」ハリーは手て加か減げんせずにぐいぐい話を進めた。「僕が十七歳になれば、僕の安全を保ってきた守りの呪文じゅもんが破やぶれるんだ。そしたら、おじさんたちも僕も危険にさらされる。騎き士し団だんは、ヴォルデモートが必ずおじさんたちを狙ねらうと見ている。僕の居い場ば所しょを見つけ出そうとして拷問ごうもんするためか、さもなければ、おじさんたちを人質ひとじちに取れば僕が助けにくるだろうと考えてのことだ」