「モリー、ブランデーはねえかな、え」ハグリッドは少しよろめきながら言った。「気つけ薬用だが」
魔法で呼び寄せることができるはずなのに、曲がりくねった家に走って戻るおばさんの後ろ姿を見て、ハリーは、おばさんが顔を見られたくないのだと思った。ハリーはジニーを見た。すると、様子が知りたいという無言のハリーの願いを、ジニーは汲くみ取ってくれた。
「ロンとトンクスが一番に戻るはずだったけど、移動ポートキーの時間に間に合わなかったの。キーだけが戻ってきたわ」ジニーはそばに転がっている錆さびた油注あぶらさしを指差した。「それから、あれは――」ジニーは、ボロボロのスニーカーを指しながら言った。「パパとフレッドのキーのはずだったの。二番目に着く予定だった。ハグリッドとあなたが三番目で」ジニーは腕時計を見た。「間に合えば、ジョージとルーピンがあと一分ほどで戻るはずよ」
ウィーズリーおばさんがブランデーの瓶びんを抱えて再び現れ、ハグリッドに手渡した。ハグリッドは栓せんを開け、一気に飲み干した。
「ママ」ジニーが、少し離はなれた場所を指差して叫んだ。
暗闇くらやみに青い光が現れ、だんだん大きく、明るくなった。そして、ルーピンとジョージが独こ楽まのように回りながら現れて倒れた。何かがおかしいと、ハリーはすぐに気づいた。ルーピンは、血だらけの顔で気を失っているジョージを支えている。
ハリーは駆け寄って、ジョージの両足を抱え上げた。ルーピンと二人でジョージを家の中に運び込み、台所を通って居間のソファに寝かせた。ランプの光がジョージの頭を照らし出すと、ジニーは息を呑のみ、ハリーの胃袋いぶくろはぐらりと揺ゆれた。ジョージの片方の耳がない。頭の横から首にかけて、驚くほど真っ赤な血でべっとり染そまっていた。
ウィーズリーおばさんが息子の上に屈かがみ込むとすぐ、ルーピンがハリーの二にの腕うでをつかんで、とても優しいとは言えない強さで引っ張り、台所に連れ戻した。そこでは、ハグリッドが、巨体をなんとか勝手口から押し込もうとがんばっていた。
「おい」ハグリッドが憤慨ふんがいした。「ハリーを放はなせ 放さんか」
ルーピンは無視した。
「ホグワーツの私の部屋を、ハリー・ポッターが初めて訪たずねたときに、隅すみに置いてあった生き物は何だ」ルーピンはハリーをつかんだまま小さく揺ゆすぶった。「答えろ」
「グ――グリンデロー、水槽すいそうに入った水魔すいま、でしょう」
ルーピンはハリーを放し、台所の戸棚とだなに倒れるようにもたれ掛かかった。
「な、何のつもりだ」ハグリッドが怒ど鳴なった。
「すまない、ハリー。しかし、確かめる必要があった」ルーピンは簡潔かんけつに答えた。「裏切られたのだ。ヴォルデモートは、君が今夜移されることを知っていたし、やつにそれを教えることができたのは、作戦に直接かかわった者だけだ。君が偽者にせものの可能性もあった」
「そんなら、なんで俺おれを調べねえ」
勝手口を通り抜けようとまだもがきながら、ハグリッドが息を切らして聞いた。
「君は半巨人だ」ルーピンがハグリッドを見上げながら言った。「ポリジュース薬はヒトの使用に限定されている」