「騎き士し団だんのメンバーが、ヴォルデモートに今夜の移動のことを話すはずがない」ハリーが言った。疑うことさえ、ハリーには厭いとわしかった。誰一人として、そんなことをするとは思えなかった。「ヴォルデモートは、最後のほうになって僕に追いついたんだ。最初は、誰が僕なのか、あいつは知らなかった。あいつが作戦を知っていたなら、僕がハグリッドと一緒いっしょだと、はじめからわかっていたはずだ」
「ヴォルデモートが君を追ってきたって」ルーピンが声を尖とがらせた。「何があったんだ どうやって逃れた」
ハリーはかいつまんで説明した。自分を追っていた死し喰くい人びとたちが、本物のハリーだと気づいたらしいこと、追跡ついせきを急に中止したこと、ヴォルデモートを呼び出したに違いないこと、そしてハリーとハグリッドが安全地帯のトンクスの実家に到着する直前に、ヴォルデモートが現れたこと、などなど。
「君が本物だと気づいたって しかし、どうして 君は何をしたんだ」
「僕……」ハリーは思い出そうとした。
今夜のことすべてが、恐怖と混乱のぼやけた映像えいぞうのように思えた。
「僕、スタン・シャンパイクを見たんだ……ほら、夜の騎士ナイトバスの車掌しゃしょうを知ってるでしょう それで、『武ぶ装そう解除かいじょ』しようとしたんだ。本当なら別の――だけど、スタンは自分で何をしているのかわかってない。そうでしょう 『服従ふくじゅうの呪文じゅもん』にかかっているに違いないんだ」
ルーピンは呆気あっけに取られたような顔をした。
「ハリー、武ぶ装そう解除かいじょの段階はもう過ぎた あいつらが君を捕らえて殺そうとしているというのに 殺すつもりがないなら、少なくとも『失神しっしん』させるべきだった」
「何百メートルも上空だよ スタンは正気を失っているし、もし僕があいつを『失神』させたら、『アバダ ケダブラ』を使ったも同じことになっていた。スタンはきっと落ちて死んでいた それに、『エクスペリアームス』の呪文だって、二年前、僕をヴォルデモートから救ってくれたんだ」最後の言葉を、ハリーは挑ちょう戦せん的てきにつけ加えた。
いまのルーピンは、ダンブルドア軍団に「武装解除術」のかけ方を教えようとするハリーを嘲あざ笑わらった、ハッフルパフ寮りょうのザカリアス・スミスを思い出させた。
「そのとおりだよ、ハリー」ルーピンは必死に自制じせいしていた。「しかも、その場面を、大勢の死し喰くい人びとが目撃もくげきしている こんなことを言うのは悪いが、死に直面した、そんな切迫せっぱくした場面であのような動きに出るのは、まったく普通じゃない。その現場を目撃したか、または話に聞いていた死喰い人たちの目の前で、今夜また同じ行動を繰くり返すとは、まさに自じ殺さつ行こう為いだ」
「それじゃ、僕はスタン・シャンパイクを殺すべきだったと言うんですか」
ハリーは憤慨ふんがいした。
「いや、そうではない」ルーピンが言った。「しかし、死喰い人たちは――率直そっちょくに言って、たいていの人なら――君が反撃はんげきすると予想しただろう 『エクスペリアームス、武ぶ器きよ去され』は役に立つ呪文だよ、ハリー。しかし、死喰い人は、それが君を見分ける独特どくとくの動きだと考えているようだ。だから、そうならないようにしてくれ」
ルーピンの言葉でハリーは自分の愚おろかしさに気づいたが、それでもまだわずかに反発したい気持があった。