「たまたまそこにいるだけで、邪魔じゃまだから吹き飛ばしたりするなんて、僕にはできない」ハリーが言った。「そんなことは、ヴォルデモートのやることだ」
ルーピンが言い返したが、そのときようやく狭せまい勝手口を通り抜けたハグリッドが、よろよろと椅い子すに座り込んだとたんに椅子がつぶれ、ルーピンの言葉は聞こえなかった。罵ののしったり謝あやまったりのハグリッドを無視して、ハリーは再びルーピンに話しかけた。
「ジョージは大丈夫」
ハリーに対するルーピンのいらだちは、この問い掛かけですっかりどこかに消えてしまったようだった。
「そう思うよ。ただ、耳は元通りにはならない。呪のろいでもぎ取られてしまったのだからね――」
外で、何かがゴソゴソ動き回る音がした。ルーピンは勝手口の戸に飛びつき、ハリーはハグリッドの足を飛び越えて裏庭うらにわに駆かけ出した。
裏庭には二人の人影が現れていた。ハリーが走って近づくにつれて、それが元の姿に戻る最中のハーマイオニーとキングズリーだとわかった。二人とも曲がったハンガーをしっかりつかんでいた。ハーマイオニーはハリーの腕に飛び込んだが、キングズリーは誰の姿を見てもうれしそうな顔をしなかった。ハリーは、キングズリーが杖つえを上げてルーピンの胸を狙ねらうのを、ハーマイオニーの肩越しに見た。
「アルバス・ダンブルドアが、我ら二人に遺のこした最後の言葉は」
「ハリーこそ我々の最大の希望だ。彼を信じよ」ルーピンが静かに答えた。
キングズリーは次に杖をハリーに向けたが、ルーピンが止めた。
「本人だ。私がもう調べた」
「わかった、わかった」キングズリーは杖をマントの下に収めた。「しかし、誰かが裏切ったぞ あいつらは知っていた。今夜だということを知っていたんだ」
「そのようだ」ルーピンが答えた。「しかし、どうやら七人のハリーがいるとは知らなかったようだ」
「たいした慰なぐさめにはならん」キングズリーが歯は噛がみした。「ほかに戻った者は」
「ハリー、ハグリッド、ジョージ、それに私だけだ」
ハーマイオニーが口を手で覆おおって、小さなうめき声を押し殺した。
「君たちには、何があった」ルーピンがキングズリーに聞いた。
「五人に追跡ついせきされたが二人を負傷ふしょうさせた。一人殺したかもしれん」キングズリーは一気に話した。「それに、『例のあの人』も目撃もくげきした。あいつは途中とちゅうから追跡に加わったが、たちまち姿を消した。リーマス、あいつは――」
「飛べる」ハリーが言葉を引き取った。「僕もあいつを見た。ハグリッドと僕を追ってきたんだ」
「それでいなくなったのか――君を追うために」キングズリーが言った。「なぜ消えてしまったのか理解できなかったのだが。しかし、どうして標的ひょうてきを変えたのだ」
「ハリーが、スタン・シャンパイクに少し親切すぎる行動を取ったためだ」
ルーピンが答えた。
「スタン」ハーマイオニーが聞き返した。「だけどあの人は、アズカバンにいるんじゃなかったの」
キングズリーが、おもしろくもなさそうに笑った。