ウィーズリー夫妻が、裏庭うらにわへの階段を駆かけ下りてきた。すぐ後ろにジニーがいた。二人はロンを抱きしめ、それからルーピンとトンクスを見た。
「ありがとう」ウィーズリーおばさんが二人に言った。「息子たちのことを」
「当たり前じゃないの、モリー」トンクスがすぐさま言った。
「ジョージの様子は」ルーピンが聞いた。
「ジョージがどうかしたの」ロンが口を挟はさんだ。
「あの子は、耳――」
ウィーズリーおばさんの言葉は、途中とちゅうで歓声かんせいに呑のみ込まれてしまった。高々と滑空かっくうするセストラルが見えたのだ。目の前に着地したセストラルの背から、風に吹きさらされてはいたが、ビルとフラーの無事な姿が滑すべり降おりた。
「ビル ああよかった、ああよかった――」
ウィーズリーおばさんが駆け寄ったが、ビルは、母親をおざなりに抱きしめただけで、父親をまっすぐ見て言った。
「マッド‐アイが死んだ」
誰も声を上げなかった。誰も動かなかった。ハリーは体の中から何かが抜け落ちて、自分を置き去りにしたまま、地面の下にどんどん落ちていくような気がした。
「僕たちが目撃もくげきした」ビルの言葉に、フラーがうなずいた。その頬ほおに残る涙の跡あとが、台所の明かりにキラキラ光った。「僕たちが敵てきの囲みを抜けた直後だった。マッド‐アイとダングがすぐそばにいて、やはり北を目指していた。ヴォルデモートが――あいつは飛べるんだ――まっすぐあの二人に向かっていった。ダングが動転どうてんして――僕はやつの叫さけぶ声を聞いたよ――マッド‐アイがなんとか止めようとしたけれど、ダングは『姿くらまし』してしまった。ヴォルデモートの呪のろいがマッド‐アイの顔にまともに当たって、マッド‐アイは仰向あおむけに箒ほうきから落ちて、それで――僕たちは何もできなかった。何にも。僕たちも六人に追われていた――」
ビルは涙声になった。
「当然だ。君たちには何もできはしなかった」ルーピンが言った。
全員が、顔を見合わせて立ち尽つくした。ハリーにはまだ納得なっとくできなかった。マッド‐アイが死んだ。そんなはずはない……あんなにタフで、勇敢ゆうかんで、死し地ちをくぐり抜けてきたマッド‐アイが……。
やがて、誰も口に出しては言わなかったが、誰もがもはや庭で待ち続ける意味がなくなったと気づいたようだった。全員が無言で、ウィーズリー夫妻に続いて『隠かくれ穴あな』の中へ、そして居間へと戻った。そこではフレッドとジョージが、笑い合っていた。
「どうかしたのか」居間に入ってきたみんなの顔を次々に見回して、フレッドが聞いた。「何があったんだ 誰かが――」
「マッド‐アイだ」ウィーズリーおじさんが言った。「死んだ」
双子ふたごの笑顔が衝撃しょうげきで歪ゆがんだ。何をすべきか、誰にもわからなかった。トンクスはハンカチに顔を埋うずめて、声を出さずに泣いていた。トンクスはマッド‐アイと親しかった。魔ま法ほう省しょうで、マッド‐アイの秘ひ蔵ぞっ子ことして目をかけられていたことを、ハリーは知っていた。ハグリッドは部屋の隅すみのいちばん広く空あいている場所に座り込み、テーブルクロス大のハンカチで目を拭ぬぐっていた。