ハリーの言葉のあとに、また沈黙が続いた。全員の目がハリーに注がれていた。ハリーは再び高揚こうようした気持になり、何かをせずにはいられずにファイア・ウィスキーをまた少し飲んだ。飲みながらマッド‐アイのことを想おもった。マッド‐アイは、人を信用したがるダンブルドアの傾向を、いつも痛烈つうれつに批判ひはんしていたものだ。
「よくぞ言ったぜ、ハリー」フレッドが不意に言った。
「傾聴けいちょう、傾聴 傾けい耳みみ、傾耳」ジョージがフレッドを横目で見ながら合あいの手てを入れた。フレッドの口の端はしが悪戯いたずらっぽくヒクヒク動いた。
ルーピンは、哀あわれみとも取れる奇妙きみょうな表情で、ハリーを見ていた。
「僕が、お人好ひとよしのばかだと思っているんでしょう」ハリーが詰問きつもんした。
「いや、君がジェームズに似ていると思ってね」ルーピンが言った。「ジェームズは、友を信じないのは、不ふ名めい誉よ極きわまりないことだと考えていた」
ハリーには、ルーピンの言おうとすることがわかっていた。父親は友人のピーター・ペティグリューに裏切られたではないかということだ。ハリーは説明できない怒りに駆かられ、反論したいと思った。しかしルーピンは、ハリーから顔を背そむけ、グラスを脇わきのテーブルに置いてビルに話しかけていた。
「やらなければならないことがある。私からキングズリーに頼んで、手を貸してもらえるかどうかと――」
「いや」ビルが即座そくざに答えた。「僕がやります。僕が行きます」
「どこに行くつもり」トンクスとフラーが同時に聞いた。
「マッド‐アイの亡骸なきがらだ」ルーピンが言った。「回収する必要がある」
「そのことは――」ウィーズリーおばさんが、懇願こんがんするようにビルを見た。
「待てないかって」ビルが言った。「いや。死し喰くい人びとたちに奪うばわれたくはないでしょう」
誰も何も言わなかった。ルーピンとビルは、みんなに挨拶あいさつして出ていった。
残った全員がいまや力なく椅い子すに座り込んだが、ハリーだけは立ったままだった。死は突然であり、妥協だきょうがない。全員がその死の存在を意識していた。
「僕も行かなければならない」ハリーが言った。
十組の驚愕きょうがくした目がハリーを見た。
「ハリー、そんなばかなことを」ウィーズリーおばさんが言った。「いったい、どういうつもりなの」
「僕はここにはいられない」
ハリーは額ひたいを擦こすった。こんなふうに痛むことはここ一年以上なかったのに、またチクチクと痛み出していた。
「僕がここにいるかぎり、みんなが危険だ。僕はそんなこと――」
「バカなことを言わないで」ウィーズリーおばさんが言った。「今夜の目的は、あなたを無事にここに連れてくることだったのよ。そして、ああ、うれしいことにうまくいったわ。それに、フラーが、フランスではなく、ここで結婚式を挙あげることを承知しょうちしたの。私たちはね、みんながここに泊とまってあなたを守れるように、何もかも整えたのよ――」
おばさんにはわかっていない。気が楽になるどころか、ハリーはますます気が重くなった。
「もしヴォルデモートが、ここに僕がいることを嗅かぎつけたら――」
「でも、どうしてそうなるって言うの」ウィーズリーおばさんが反論した。
「ハリー、いま現在、君のいそうな安全な場所は十二か所もある」ウィーズリーおじさんが言った。「その中の、どの家に君がいるのか、あいつにわかるはずがない」
「僕のことを心配してるんじゃない」ハリーが言った。
「わかっているよ」ウィーズリーおじさんが静かに言った。「しかし、君が出ていけば、今夜の私たちの努力はまったく無意味になってしまうだろう」