そのときを境に、ウィーズリーおばさんは、ハリーとロン、ハーマイオニーを、結婚式の準備じゅんびで大わらわにしてくれた。忙しくて何も考える時間がないほどだった。おばさんの行動を善意に解釈かいしゃくすれば、三人ともマッド‐アイのことや先日の移動の恐怖を忘れていられるように、と配慮はいりょしてのことなのだろう。しかし、二日間休む間もなく、ナイフやスプーン磨みがき、パーティ用の小物やリボンや花などの色合わせ、庭にわ小人こびと駆除くじょ、大量のカナッペを作るおばさんの手伝い等々を続けたあと、ハリーは、おばさんには別の意図があるのではないかと疑いはじめた。おばさんが言いつける仕事のすべてが、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人を、別々に引き離はなしておくためのものに思えた。最初の晩、ヴォルデモートがオリバンダーを拷問ごうもんしていた話をしてからというもの、誰もいないところで二人と話す機会きかいはまったくなかった。
「ママはね、三人が一緒いっしょになって計画するのを阻そ止しすれば、あなたたちの出発を遅らせることができるだろうって、考えているんだわ」
三日目の夜、一緒に夕食の食器をテーブルに並べながら、ジニーが声をひそめてハリーに言った。
「でも、それじゃおばさんは、そのあと、どうなると思っているんだろう」ハリーがつぶやいた。「僕たちをここに足止めして、ヴォローヴァン・パイなんか作らせている間に、誰かがヴォルデモートの息の根を止めてくれるとでも言うのか」
深く考えもせずにうっかり心の中を漏らしたハリーは、ジニーの顔が青ざめるのに気づいた。
「それじゃ、ほんとなのね」ジニーが言った。「あなたがしようとしていることは、それなのね」
「僕――別に――冗談じょうだんさ」ハリーはごまかした。
二人はじっと見つめ合った。ジニーの表情には、単に衝撃しょうげきを受けただけではない何かがあった。突然ハリーは、ジニーと二人きりになったのはしばらくぶりであることに気がついた。ホグワーツの校庭の隠れた片隅かたすみでこっそり二人きりの時間を過ごした日々以来、初めてのことだった。ハリーは、ジニーもその時間のことを思い出しているに違いないと思った。そのとき勝手口の戸が開いて、二人とも飛び上がるほど驚いた。ウィーズリーおじさんとキングズリー、ビルの三人が入ってきた。
いまでは、夕食に騎き士し団だんのメンバーが来ることが多くなっていた。「グリモールド・プレイス十二番地」に代わって、「隠かくれ穴あな」が本部の役目を果たしていたからだ。ウィーズリーおじさんの話では、騎士団の「秘密ひみつの守人もりびと」だったダンブルドアの死後は、本部の場所を打ち明けられていた騎士団員が、ダンブルドアに代わってあの本部の「秘密の守人」を務めることになったとのことだ。
「しかし、守人は二十人ほどいるから、『忠誠ちゅうせいの術じゅつ』も相当弱まっている。死し喰くい人びとが、我々のうちの誰かから秘密を聞き出す危険性は二十倍だ。秘密が今後どれだけ長く保たれるか、あまり期待できないね」
「でも、きっとスネイプが、もう十二番地を死し喰くい人びとに教えてしまったのでは」
ハリーが聞いた。
「さあね、スネイプが十二番地に現れたときに備えて、マッド‐アイが二種類の呪文じゅもんをかけておいた。それが効きいて、スネイプを寄せつけず、もしあの場所のことをしゃべろうとしたらあいつの舌を縛しばってくれることを願っているがね。しかし確信は持てない。守りが危あやうくなってしまった以上、あそこを本部として使い続けるのは、まともな神経とは言えないだろう」