その晩の台所は超ちょう満まん員いんで、ナイフやフォークを使うことさえ難しかった。気がつくとハリーは、ジニーの隣となりに押し込まれていた。いましがた無言で二人の間に通い合ったものを思うと、ハリーはジニーとの間にもう二、三人座っていてほしかった。ジニーの腕に触ふれないようにしようと必死になって、チキンを切ることさえできないくらいだった。
「マッド‐アイのことは、何もわからないの」ハリーがビルに聞いた。
「何にも」ビルが答えた。
ビルとルーピンが遺体いたいを回収できなかったために、まだ、マッド‐アイ・ムーディの葬儀そうぎができないままだった。あの暗さ、あの混こん戦せん状じょう態たいからして、マッド‐アイがどこに落ちたのかを知るのは難しかった。
「『日にっ刊かん予よ言げん者しゃ』には、マッド‐アイが死んだとも遺体を発見したとも、一言も載のっていない」ビルが話を続けた。「しかし、それは、取りたてて言うほどのことでもない。あの新聞は、最近いろいろなことに口を噤つぐんだままだからね」
「それに、死喰い人から逃れるときに、未成年の僕があれだけ魔法を使ったのに、まだ尋問じんもんに召喚しょうかんされないの」ハリーはテーブルの向こうにいるウィーズリーおじさんに聞いたが、おじさんは首を横に振ふった。「僕にはそうするしか手段しゅだんがなかったって、わかっているからなの それともヴォルデモートが僕を襲おそったことを、公表されたくないから」
「あとのほうの理由だと思うね。スクリムジョールは、『例のあの人』がこれほど強くなっていることも、アズカバンから集団脱走だっそうがあったことも、認めたくないんだよ」
「そうだよね、世間に真実を知らせる必要なんかないものね」ハリーはナイフをぎゅっと握りしめた。すると、右手の甲こうにうっすらと残る傷痕きずあとが白く浮かび上がった。
僕は嘘うそをついてはいけない
「魔ま法ほう省しょうには、大臣に抵抗ていこうしようって人はいないの」ロンが憤慨ふんがいした。
「もちろんいるよ、ロン。しかし誰もが怯おびえている」ウィーズリーおじさんが答えた。「次は自分が消される番じゃないか、自分の子どもたちが襲われるんじゃないか、とね。いやな噂うわさも飛び交かっている。たとえば、ホグワーツのマグル学の教授きょうじゅの辞任じにんにしたって、信じていないのはおそらく私だけじゃない。もう何週間も彼女は姿を消したままだ。一方、スクリムジョールは一日中大臣室にこもりきりだ。何か対策たいさくを考えていると望みたいところだがね」
一瞬いっしゅん話が途と切ぎれたところで、ウィーズリーおばさんが空からになった皿を魔法で片付け、アップルパイを出した。