二人で家の中に戻ったときには、おばさんはどこにも姿が見えなかった。そこでハリーは、こっそり屋や根ね裏うらのロンの部屋に行った。
「ちゃんとやってるったら、やってる ――あっ、なんだ、君か」
ハリーが部屋に入ると、ロンがほっとしたように言った。ロンは、いまのいままで寝転ねころがっていたことが見え見えのベッドに、また横になった。ずっと散らかしっぱなしだった部屋はそのままで、違うと言えば、ハーマイオニーが部屋の隅すみに座り込んでいることぐらいだった。足元には、ふわふわしたオレンジ色のクルックシャンクスがいた。ハーマイオニーは本を選より分け、二つの大きな山にして積み上げていた。中にはハリーの本も見えた。
「あら、ハリー」
ハリーが自分のキャンプベッドに腰掛こしかけると、ハーマイオニーが声をかけた。
「ハーマイオニー、君はどうやって抜け出したの」
「ああ、ロンのママったら、昨日もジニーと私にシーツを代える仕事を言いつけたことを、忘れているのよ」
ハーマイオニーは「数すう秘ひ学がくと文ぶん法ぽう学がく」を一方の山に投げ、「闇やみの魔術まじゅつの盛衰せいすい」をもう一方の山に投げた。
「マッド‐アイのことを話してたところなんだけど」ロンがハリーに言った。「僕、生き延びたんじゃないかと思うんだ」
「だけど、『死しの呪文じゅもん』に撃うたれたところを、ビルが見ている」ハリーが言った。
「ああ、だけど、ビルも襲おそわれてたんだぞ」ロンが言った。「そんなときに、何を見たなんて、はっきり言えるか」
「たとえ『死の呪文』が逸それていたにしても、マッド‐アイは地上三百メートルあたりから落ちたのよ」
「イギリスとアイルランドのクィディッチ・チーム」の本の重さを手で測りながら、ハーマイオニーが言った。
「『盾たての呪文』を使ったかもしれないぜ――」
「杖つえが手から吹き飛ばされたって、フラーが言ったよ」ハリーが言った。
「そんならいいさ、君たち、どうしてもマッド‐アイを死なせたいんなら」
ロンは、枕まくらを叩たたいて楽な形にしながら、不ふ機き嫌げんに言った。
「もちろん死なせたくないわ」ハーマイオニーが衝撃しょうげきを受けたような顔で言った。「あの人が死ぬなんて、あんまりだわ でも現実的にならなくちゃ」
ハリーは初めて、マッド‐アイの亡骸なきがらを想像した。ダンブルドアと同じように折れ曲がっているのに、片方の目玉だけが眼窩がんかに収まったまま、ぐるぐる回っている。ハリーは目を背そむけたいような気持が湧わいてくると同時に、笑い出したいような奇妙きみょうな気持が混じるのを感じた。