「たぶん死し喰くい人びとのやつらが、自分たちの後始末をしたんだよ。だからマッド‐アイは見つからないのさ」ロンがいみじくも言った。
「そうだな」ハリーが言った。「バーティ・クラウチみたいに、骨にしてハグリッドの小屋の前の庭に埋めたとか。『変身へんしん呪文じゅもん』で姿を変えたムーディを、どこかに無理やり押し込んだかも――」
「やめて」ハーマイオニーが金切かなきり声を上げた。
ハリーが驚いて声のほうを見ると、ハーマイオニーが自分の教きょう科か書しょの「スペルマンのすっきり音節おんせつ」の上にわっと泣き伏ふすところだった。
「ごめん」ハリーは、旧式のキャンプベッドから立ち上がろうとじたばたしながら謝あやまった。「ハーマイオニー、いやな思いをさせるつもりは――」
しかしそのとき、錆さびついたベッドのバネが軋きしむ大きな音がして、ベッドから飛び起きたロンが先に駆かけ寄よっていた。ロンは片腕をハーマイオニーに回しながら、ジーンズのポケットを探って、前にオーブンを拭ふいたむかつくほど汚きたならしいハンカチを引っ張り出した。あわてて杖つえを取り出したロンは、ボロ布に杖を向けて唱となえた。
「テルジオ 拭ぬぐえ」
杖が、油汚あぶらよごれを大部分吸い取った。さも得意気な顔で、ロンは少し燻くすぶっているハンカチをハーマイオニーに渡した。
「まあ……ありがとう、ロン……ごめんなさい……」ハーマイオニーは鼻をかみ、しゃくり上げた。「ひ、ひどいことだわ。ダンブルドアのす、すぐあとに……。私、ほ、本当に――い、一度も――マッド‐アイが死ぬなんて、考えなかったわ。なぜだか、あの人は不死身みたいだった」
「うん、そうだね」ロンは、ハーマイオニーを片腕でぎゅっと抱きしめながら言った。「でも、マッド‐アイがいまここにいたら、何て言うかわかるだろ」
「『ゆ――油断ゆだん大敵たいてき』」ハーマイオニーが涙を拭ぬぐいながら言った。
「そうだよ」ロンがうなずいた。「自分の身に起こったことを教訓きょうくんにしろって、そう言うさ。そして、僕は学んだよ。あの腰抜こしぬけで役立たずのチビのマンダンガスを、信用するなってね」
ハーマイオニーは泣き笑いをし、前屈まえかがみになって本をまた二冊拾い上げた。次の瞬間しゅんかん、ロンはハーマイオニーの両肩に回していた腕を急に引っ込めた。ハーマイオニーが「怪物かいぶつ的てきな怪かい物ぶつの本ほん」をロンの足に落としたのだ。本を縛しばっていたベルトが外はずれ、解とき放はなたれた本が、ロンのかかとに荒々しく噛かみついた。