「そうね」
ハーマイオニーはかなり激はげしい表情で「トロールとのとろい旅たび」を不要本の山に叩たたきつけた。
「私はもう、ずいぶん前から荷造にづくりしてきたわ。だから、私たち、いつでも出発できます。ご参考までに申し上げますけど、準備じゅんびにはかなり難しい魔法も使ったわ。とくに、ロンのママの目と鼻の先で、マッド‐アイのポリジュース薬を全部ちょうだいするということまでやってのけました。
それに、私の両親の記憶きおくを変えて、ウェンデル・ウィルキンズとモニカ・ウィルキンズという名前だと信じ込ませ、オーストラリアに移住することが人生の夢だったと思わせたわ。二人はもう移住したの。ヴォルデモートが二人を追跡ついせきして、私のことで、または――残念ながら、あなたのことを両親にずいぶん話してしまったから――あなたのことで二人を尋問じんもんするのがいっそう難しくなるようにね。
もし私が分ぶん霊れい箱ばこ探しから生きて戻ったら、パパとママを探して呪文じゅもんを解とくわ。もしそうでなかったら――そうね、私のかけた呪文が十分に効きいていると思うから、安全に幸せに暮らせるでしょう。ウェンデルとモニカ・ウィルキンズ夫妻はね、娘がいたことも知らないの」
ハーマイオニーの目が、再び涙で潤うるみはじめた。ロンはまたベッドから降おり、もう一度ハーマイオニーに片腕を回して、繊細せんさいさに欠けると非難するように、ハリーにしかめ面を向けた。
ハリーは言うべき言葉を思いつかなかった。ロンが誰かに繊細さを教えるというのが、非常にめずらしかったせいばかりではない。
「僕――ハーマイオニー、ごめん――僕、そんなことは――」
「気づかなかったの ロンも私も、あなたと一緒いっしょに行けばどういうことが起こるか、はっきりわかっているわ。それに気づかなかったの ええ、私たちにはわかっているわ。ロン、ハリーにあなたのしたことを見せてあげて」
「うえぇ、ハリーはいま食事したばかりだぜ」ロンが言った。
「見せるのよ。ハリーは知っておく必要があるわ」
「ああ、わかったよ。ハリー、こっちに来いよ」
ロンは、再びハーマイオニーに回していた腕を離はなし、ドアに向かってドスドス歩いた。
「来いよ」
「どうして」ロンに従ついて部屋の外の狭せまい踊おどり場ばに出ながら、ハリーが聞いた。
「ディセンド、降おりよ」ロンは杖つえを低い天井に向け、小声で唱となえた。真上の天井の撥はね戸どが開き、二人の足元に梯子はしごが滑すべり降りてきた。四角い撥ね戸から、半分息を吸い込むような、半分うめくような恐ろしい音が聞こえ、同時に下水を開けたような悪臭が漂ただよってきた。