「君の家の、屋や根ね裏うらお化ばけだろう」ハリーが聞いた。ときどき夜の静けさを破やぶる生き物だったが、ハリーはまだ実物にお目にかかったことはなかった。
「ああ、そうさ」ロンが梯子を上りながら言った。「さあ、こっちに来て、やつを見ろよ」
ロンのあとから短い梯子を数段上ると、狭せまい屋根裏部屋に出た。頭と肩をその部屋に突き出したところで、一メートルほど先に身を丸めている生き物の姿がハリーの目に止まった。薄暗うすぐらい部屋で大口を開けてぐっすり寝ている。
「でも、これ……見たところ……屋根裏お化けって普通パジャマを着てるの」
「いいや」ロンが言った。「それに、普通は赤毛でもないし、こんなできものも噴ふき出しちゃいない」
ハリーは少し吐はき気けを催もよおしながら、生き物をしげしげと眺ながめた。形も大きさも人間並みだし、暗闇くらやみに目が慣れてよく見ると、着ているのはロンのパジャマのお古ふるだと明らかにわかる。普通の屋根裏お化けは、たしか禿はげてヌルヌルした生き物だったはずだ、とハリーは思った。こんなに髪かみの毛が多いはずはないし、体中に赤あか紫むらさきの疱疹ほうしんの炎症えんしょうがあるはずもない。
「こいつが僕さ。わかるか」ロンが言った。
「いや」ハリーが言った。「僕にはさっぱり」
「部屋に戻ってから説明するよ。この臭いには閉口へいこうだ」ロンが言った。二人は下に降おり、ロンが梯子はしごを天井に片付けて、まだ本を選より分けているハーマイオニーのところに戻った。
「僕たちが出発したら、屋や根ね裏うらお化ばけがここに来て、僕の部屋に住む」ロンが言った。「あいつ、それを楽しみにしてると思うぜ――まあ、はっきりとはわからないけどね。なにしろあいつは、うめくことと涎よだれを垂らすことしかできないからな――だけど、そのことを言うと、あいつ何度もうなずくんだ。とにかく、あいつが僕になる。黒こく斑はん病びょうにかかった僕だ。冴さえてるだろう、なっ」
ハリーは混乱そのものの顔だった。
「冴えてるさ」
ロンは、ハリーがこの計画のすばらしさを理解していないことが歯がゆそうだった。
「いいか、僕たち三人がホグワーツに戻らないと、みんなはハーマイオニーと僕が、君と一緒いっしょだと考える。そうだろ つまり、死し喰くい人びとたちが、君の行方を知ろうとして、まっすぐ僕たちの家族のところへ来る」
「でも、うまくいけば、私は、パパやママと一緒に遠くへ行ってしまったように見えるわけ。マグル生まれの魔法使いたちは、いま、どこかに隠れる話をしている人が多いから」
ハーマイオニーが言った。