「僕の家族を全員隠すわけにはいかない。それじゃあんまり怪あやしすぎるし、全員が仕事をやめるわけにはいかない」ロンが言った。「そこで、僕が黒斑病で重体じゅうたいだ、だから学校にも戻れない、という話をでっち上げる。誰かが調査に来たら、パパとママが、できものだらけで僕のベッドに寝ている屋根裏お化けを見せる。黒斑病はすごく伝う染つるんだ。だから連中はそばに寄りたがらない。やつが話せなくたって問題ないんだ。だって、菌きんが喉のど元もとまで広がったら、当然話せないんだから」
「それで、君のママもパパも、この計画に乗ってるの」ハリーが聞いた。
「パパのほうはね。フレッドとジョージが屋根裏お化けを変身させるのを、手伝ってくれた。ママは……まあね、ママがどんな人か、君もずっと見てきたはずだ。僕たちが本当に行ってしまうまでは、ママはそんなこと受け入れないよ」
部屋の中が静かになった。ときどき静けさを破やぶるのは、ハーマイオニーがどちらかの山に本を投げるトン、トンという軽い音だけだった。ロンは座ってハーマイオニーを眺ながめ、ハリーは何も言えずに二人を交互に見ていた。二人は、本当にハリーと一緒に来るつもりなのだ。二人が家族を守るためにそこまで準備じゅんびしていたということが、何にも増してはっきりとハリーにそのことを気づかせてくれた。それに、それがどんなに危険なことか、二人にはよくわかっているのだ。ハリーは、二人の決意が自分にとってどんなに重みを持つことなのかを伝えたかった。しかし、その重みに見合う言葉が見つからない。
沈黙ちんもくを破やぶって、四階下からウィーズリーおばさんのくぐもった怒ど鳴なり声が聞こえてきた。
「ジニーが、ナプキン・リングなんてつまんないものに、ちょっぴり染しみでも残してたんじゃないか」ロンが言った。「デラクール一家が、なんで式の二日も前に来るのか、わかんねえよ」
「フラーの妹が花嫁の付添つきそい役だから、リハーサルのために来なきゃいけないの。それで、まだ小さいから、一人では来られないのよ」ハーマイオニーが「泣なき妖怪ようかいバンシーとのナウな休日きゅうじつ」をどちらに分けるか決めかねて、じっと見ながら答えた。
「でもさ、お客が来ると、ママのテンションは上がる一方なんだよな」ロンが言った。
「絶対に決めなくちゃならないのは――」
ハーマイオニーは「防ぼう衛えい術じゅつの理論りろん」をちらと見ただけでゴミ箱に投げ入れ、「ヨーロッパにおける魔ま法ほう教育きょういくの一いち考こう察さつ」を取り上げながら言った。
「ここを出てから、どこへ行くのかってこと。ハリー、あなたが最初にゴドリックの谷に行きたいって言ったのは知ってるし、なぜなのかもわかっているわ。でも……ねえ……分霊ぶんれい箱ばこを第一に考えるべきなんじゃないかしら」