「おっどろき、桃の木、山椒さんしょうの木だ。どうやって分霊箱の本を手に入れたんだい」
「別に――別に盗んだわけじゃないわ」
ハーマイオニーはすがるような目でハリーを見て、それからロンを見た。
「ダンブルドアが本棚ほんだなから全部取り除きはしたけれど、まだ図書室の本だったのよ。とにかく、ダンブルドアが本当に誰の目にも触ふれさせないつもりだったら、きっととても困難こんなんな方法でしか――」
「結論を早く言えよ」ロンが言った。
「あのね……簡単だったの」ハーマイオニーは小さな声で言った。「『呼よび寄よせ呪文じゅもん』を使ったのよ。ほら――アクシオ、来いって。そしたら――ダンブルドアの書斎しょさいの窓から飛び出して、まっすぐ女じょ子し寮りょうに来たの」
「だけど、いつの間にそんなことを」
ハリーは半なかば感心し、半ば呆あきれてハーマイオニーを見た。
「あのあとすぐ――ダンブルドアの――葬儀そうぎの」ハーマイオニーの声がますます小さくなった。「私たちが学校をやめて分霊箱を探しにいくって決めたすぐあとよ。荷造にづくりをしに女子寮に上がったとき、ふと思いついたの。分霊箱のことをできるだけ知っておいたほうがいいんじゃないかって……それで、周りに誰もいなかったから……それで、やってみたの……そうしたらうまくいったわ。開いていた窓からまっすぐ飛び込んできて、それで私――本をみんなしまい込んだの」
ハーマイオニーはゴクリと唾つばを飲み込んで、哀願あいがんするように言った。
「ダンブルドアはきっと怒らなかったと思うの。私たちは、分霊箱を作るために情報じょうほうを使おうとしているわけじゃないんだから。そうよね」
「僕たちが文句もんくを言ってるか」ロンが言った。「どこだい、それでその本は」
ハーマイオニーはしばらくゴソゴソ探していたが、やがて本の山から、すり切れた黒くろ革かわ綴とじの分厚ぶあつい本を一冊取り出した。ハーマイオニーは、ちょっと吐はき気けを催もよおしたような顔をしながら、まだ生々なまなましい死骸しがいを渡すように、恐る恐る本を差し出した。
「この本に、分霊ぶんれい箱ばこの作り方が具体的に書いてあるわ。『深ふかい闇やみの秘術ひじゅつ』――恐ろしい本、本当にぞっとするわ。邪悪じゃあくな魔法ばかり。ダンブルドアはいつ図書室から取り除いたのかしら……もし校長になってからだとすれば、ヴォルデモートは、必要なことをすべて、この本から学び取ったに違いないわ」
「でもさ、もう読んでいたんなら、どうしてスラグホーンなんかに、分霊箱の作り方を聞く必要があったんだ」ロンが聞いた。
「あいつは、魂たましいを七分割したらどうなるかを知るために、スラグホーンに聞いただけだ」ハリーが言った。「リドルがスラグホーンに分霊箱のことを聞いたときには、もうとっくに作り方を知っていただろうって、ダンブルドアはそう確信していた。ハーマイオニー、君の言うとおりだよ。あいつはきっと、その本から情報じょうほうを得ていたと思う」